2019年3月に、ユニオンリカーズさんから6年ぶりに日本での発売を開始した、シングルエステートテキーラ「OCHO(オチョ)」。
世界に二人しかいないテキーラアンバサダーのひとりであり、テキーラ業界で話題となった「The Tequila Ambassador」の著者トーマス・エステス氏と、テキーラ造りの現場を追った初のドキュメンタリー映画「Agave The Spirit Of A Nation」に出演したテキーラの名門カマレナ家のカルロス・カマレナ氏のが手掛けるメキシコはもちろん欧米を中心に人気のブランドです。
今回のメキシコツアーで、オチョをつくるラ・アルテーニャ蒸留所を再訪してきました。
ブランドオーナーのトーマス・エステス氏とは、2013年9月に彼が初来日した際に知り合い、その時に彼の著書で紹介していたテキーラ村の「La Capilla」で、お店発祥のカクテル「バタンガ」を一緒に飲もうと約束をして、翌月の10月にメキシコで再会しました。
トーマス氏の親交の深いフォルタレサのオーナーギレルモ氏も登場し、テキーラ界の重鎮に囲まれてドキドキしながらテキーラを飲んだ日の事は今でも鮮明に覚えています。
その後、2015年に同じタイミングでメキシコに滞在する機会があり、グアダラハラのバー巡りをしたり、2016年にはロンドンのテキーライベントに参加し、彼の息子で現在オチョのグローバルブランドアンバサダーのジェシー・エステス氏にも会う機会がありました。
忙しい彼らとはなかなか会う機会はありませんが、ワールドカップの際にメキシコのユニフォームに私の名前を入れてロンドンから送ってくれて、オチョファミリーとして紹介していただいたり、毎年メキシコに行く度に、ラ・アルテーニャ蒸留所を訪問したり、メキシコの担当者ホセ・サンドバル氏とお会いして食事に行ったり交流を続けていました。
日本での発売が一度終了してしまってからも、ずっとオチョの素晴らしさを伝えたいという思いを持っていたので、今回の発売再開は本当に嬉しいニュース
テキーラ造りの名門であるカマレナ一家に誕生した、ドン・フェリペ・カマレナが創業者のラ・アルテーニャ蒸留所は、メキシコ革命紛争で破壊されてしまった場所から、1937年にアランダスに再建し、現在は息子・孫に受継がれ、地元で愛されている「エルテソロ デ ドンフェリペ」「タパティオ」、そして、今回ご紹介する「オチョ」など、個性的なテキーラを造り続けています。
その中でもオチョは正統派で大変シンプルで、純粋な味わいが個性となっています。
その土地の伝統的な食文化や食材を見直すという考えを尊重しており、クラフトではなくスローフードの精神と彼らはいいます。
メキシコという国・テキーラを愛し、それを象徴するメキシコの風土を生かしたテキーラをつくりたいという思いで、オチョのプロジェクトはスタートしました。
オチョは日本語で数字の「8」を意味しますが、ブランドをつくる際に、トーマスとカルロスがそれぞれ別の部屋でサンプルのテキーラを順番にテイスティングし、お互いに一番美味しいテキーラを発表する際、8番目のテキーラが美味しいと2人の意見が一致したことでサンプル8番の「オチョ」というブランド名が誕生しました。
そのほかにも、アガベが平均8年栽培すること、収穫したアガベがテキーラになるのに8日間かかること、1リットルのテキーラをつくるのに8キロのアガベを使用すること、レポサドが8週8日熟成すること、カルロスが兄弟の中8番目など、8という数字が様々なキーワードになっています。
オチョは、蒸留所のあるアランダスのエリアを中心に毎年1~3ヶ所の畑を選んで、そのエリアから土の栄養をたっぷり含んだ糖度の高いアガベを選りすぐり収穫しています。雨期はアガベが水っぽくなるので、1年の間で収穫できる時期も限られています。
テロワールやアガベ本来の味わいを大切にしているため収穫する畑をまぜることをしません。
実際に畑も見せていただきましたが、アガベのブルーと赤土のコントラストが美しい景色が広がっています。
(2015年にカルロス・カマレナさんの案内でオチョの畑で収穫体験をしました)
煉瓦製のマンポステラで8〜10時間一度加熱をして苦みや汚れを落としてから、再度ゆっくり加熱をして、24時間冷ましてからシュレッダーを使い絞汁をした後は、大きな木製の発酵層で自然発酵。
加熱は低温でじっくり。一般的な蒸留所の2倍の時間をかけます。
ここの蒸留所はタオナもありますが、アガベの品質にこだわって収穫したものなので、シュレッダーで十分アガベの味わいが感じられるという事で、オチョにはタオナは使っていません。
天候や湿度を見ながら、4~5日間かけてじっくり発酵させます。
木製の発酵層は、メンテナンスや清掃が大変なので、なかなか使われていないのですがここではあえてすべて木製。
蒸留所のある場所の空気、風の香り、倉つき酵母など、その土地のテロワールを大切にしたいため、ステンレスではなく木製のものを使用しています。
ちなみに、エルテソロは100%タオナ、タパティオはタオナとシュレッダーをミックスしていますが、使用しているアガベも違いますし、それぞれ別の時期にブランドごとにつくっているため、同じ蒸留所でも全く違うテキーラの味わいになります。
1回目の蒸留は、ステンレス製。
タパティオは、写真・右側の銅製のもの2回目に使い、オチョは、2回目の蒸留に一番左の小さな銅製の蒸留器を使います。
エルテソロは1回目はタパティオと同じ銅製のもの、2回目は銅製の小型の蒸留器を使います。
全て、何度も試作して考え抜かれた製法になっています。
蒸留の過程では、加水を最小限にするため、低いアルコール分を目指して蒸留していることで、アガベ本来の味・香りを、蒸留過程でも残るように工夫されています。
樽で熟成し過ぎず、レポサド、アネホもCRTで決められたミニマムの熟成期間のみ。レポサドは8週間と8日、アネホは1年です。
オチョの場合は、1回使った樽はリチャーせずに、同じくらい使われた古いウィスキー樽を購入して使うことで、味のバランスを崩さないようにしているそうです。
フィルタリングもしません。
樽の貯蔵庫には、川の水を壁から流すことで、一定の湿度を保っています。
山に囲まれ、蒸留所の近くは清流が流れるのどかで美しい場所。
時間の流れが止まるような感覚を覚える、自然の魅力いっぱいのこの蒸留所にいると清々しい気分になります。
こうして、樽香が強く感じないくらいの、アガベ本来の香りをいかした、非常にエレガントなテキーラが完成します。
一流の素材から一流のテキーラを作る事。水、アガベ、酵母、そして何よりも大切なのは作り手の情熱だと教えてくれました。
ロッドが違えば味は違う、同じ年でも畑が違えば味が違う。
指紋と一緒でそこにしかないものをテキーラとして残したのがオチョです。
毎年気候も違えば、土も違う。使用するアガベも違うのに、全く同じものをつくれるほうがおかしいので、個性を大切にして、その年、その畑のオチョを楽しんで欲しいと言います。
テイスティングでは、同じ年のヴィンテージで畑違いのものを飲み比べしましたが、たしかに全く違う。
「同じブランドでも好き・嫌いがあってもかまわない。むしろその違いを楽しんで欲しい」蒸留所を案内してくれたブランドアンバサダーのMagallyさんは言いました。
「テキーラは美術品と同じ。最高のアガベでできたテキーラを、美しいフレームで飾ってあげたい。」
メキシコで出会った皆さんは、「テキーラはメキシコのギフト」とよく言います。
メキシコを愛し、理解し、テキーラを知る。
地元アランダスの街には、至る所にオチョの看板があり、お酒屋さんにもヴィンテージ別で並んでいます。
現在、アガベ不足でテキーラの生産量が減少していることにより、世界的にテキーラの価格が上がり中には30%以上も値段を上げたブランドもあります。
そんな中、「オチョ」は価格をあえて下げたそうです。
より多くのボトルを販売できるかではなく、より多くの人にテキーラのおいしさを知ってもらえるか。
それが「オチョ」の使命だと言います。
テキーラへの愛と情熱を感じるブランド「オチョ」をこれからもたくさんの方に伝えて行きたいと思います。
◆オチョ
ユニオンリカーズ株式会社