親父の借金を返すために母親は常に働いていた


女の子が欲しかったらしくおれはある程度まで

女として扱われたが母の求めるものとは

到底違っていたのだろう


元々、2人の兄で子育てに飽きていたのか

おれへの興味はすぐになくなっていた



2人の兄とは年が離れていて

面倒見の良い兄ならよかったのだが

いつも邪険にされてたっけ



そんなわけで家族と

会話というものをした覚えがない






10歳に満たないような頃だった

貧乏な家庭のためお小遣いもないおれは惨めで


同い年の学校の友達も

年の離れた兄たちも貰っているのに…




母親の財布には見たこともない大金があった





少しくらいいいじゃないか、と

おれはその中から最も大きい1枚を

こっそりポケットに入れた



それからしばらくおれは無敵だった



好きなお菓子をいくらでも買えた

もう惨めな気分にはならなかった






でも長く続かない



もう1枚くらい、と財布に手をかけると

包丁を持った母親が鬼の形相で襲いかかってきた




ひとつも思い出せないが

罵声の言葉の数々を散々浴びせられ

ボコボコにされたし何なら少し切られた




顔に包丁を押し付けられながら1時間か2時間か


母親が疲れたのだろう、やっとおれは解放されて

我関せずな2人の兄の冷ややかな視線と

おれをゴミみたいに扱う母親のあいだで

おれはもっと惨めな気持ちになった。



それ以来、金に関しては誰よりもクリーンだ







当時、父親は失踪していたので

おれの世界の神は母親で、

しかしおれは神にとってゴミでしかなかったんだ






余談だが失踪から父親が戻ってきて以降

親父が植物人間になるまで十数年間

母親の財布から金がなくなることが続いた



始めのうちはそのたびにおれが疑われ

ボコボコにされたのだが

もちろん犯人は親父だった