昨日はなかなか寝付けなかった。
いつも通りに飲んでいつもの時間に寝た。
しかし、頭の中がグルグルしてどうにもならない。
理由はわかっている。
決して甘すぎた生姜焼きのせいではない。
翔の告白のせいだ。
翔は智のことを恋愛対象として見ている。
では智は?
そんな翔のことを……翔の言葉を借りるなら、気持ち悪いと思うだろうか?
いや、智はそんな子ではない。
もし翔に気がなかったとしても、弟の性志向を否定するような子ではない。
では、智も翔のことを憎からず思っているとしたら……?
智も翔と似たようなことを言ってなかったか?
智に恋人ができたら家を出ると言った翔と。
……そうだ、家に閉じ込めたいと言っていた。
それくらい心配だと。
あれは……どういう意味だったんだろうか?
智も翔のことを……?
いや、勝手に想像で話を進めてはいけない。
智の気持ちを確かめないと……。
急がなければ。
明日は家族旅行だ。
モヤモヤした気持ちのまま旅行になんて行けるわけがない。
だが待てよ。
はっきりして、さらに行きにくいことになりはしないか?
う~ん、困った。
どのパターンで考えても行きにくいことこの上ない。
まず、智が翔に気がなかったとしたら。
翔と智の関係が気まずくなる。
それを見ながらの旅行は……楽しめないに違いない。
では、智が翔と同じ気持ちだったら?
二人のイチャイチャにさらに磨きがかかって……見ていられないんじゃないか?
では、聞かずにこのまま旅行に行ってしまったら?
……翔の気持ちを考えると、やりきれない。
翔の視線、行動に私が耐えきれなくなるんじゃないか?
男同士、兄弟と言う壁を抱えて、それでも好きだと言った翔。
あのキスは、精一杯、気持ちを押さえる為のキス。
起きている智にはできない行動。
そんなの切ないじゃないか。
やはり、智に気持ちを聞いてみよう。
どんな結果であれ、翔には教えず、私の胸の中に留める。
うん、そうしよう。
それがいい。
智にその気があったとしても、なかったとしても、それより先は二人の問題。
私の出る幕ではない。
「智。」
ビールを飲みながら、智を呼ぶ。
「ん?どした?」
智がスマホから顔を上げる。
「明日の用意はできてるのか?」
智は笑って、私の向いにやってくる。
「できてるよ。父ちゃんは……心配する必要ないか。
翔ちゃん、ちゃんとやったかな。」
翔は今日もバイトだ。
旅行の前日だから休みたかったらしいが、人が足りないらしい。
「何か忘れたら、旅先で買えばいい。パパが一緒なんだから。」
「んふふ、そうだね。」
智は自分が飲んでいたペットボトルを開ける。
「家族旅行……久しぶりだね。」
智がゴクゴクとお茶を飲む。
「小学生以来か?」
「そうだよ。田舎にも行かなくなったし。」
忙しさにかまけて、祖父の家にも行っていない。
久しぶりにあったら、智と翔が大きくなっていてびっくりするな。
「正月、顔を出しに行くか。」
「いいけど、翔ちゃんバイトかも。お正月は手当が出るらしいって言ってたから。」
「翔は何か欲しいものでもあるのか?バイト多くないか?」
「そだね……。楽しいんじゃない?」
智の瞳が曇る。
「働くのが楽しいんだろ。できるようになると、なんでも楽しくなる。」
「翔ちゃん、なんでもできるから。」
「智だってできるだろ?」
「俺はダメ。飽きちゃうもん。」
智が、んふふっと笑う。
「家でゆっくり料理するのとかはいいけど、バイト先だと流れ作業みたくなるから、
あんま楽しくない。」
「そうか。」
「だから翔ちゃんすごいなって思う。
バイト先でもモテモテだね。」
笑いながらお茶を飲むが、目が笑ってない。
「翔のことを羨ましく思ってるのか?」
「羨ましいのは……翔ちゃんじゃない。」
ペットボトルの上に顎を乗せた智の唇が尖る。
「翔じゃなかったら、誰だ?」
智の口がさらに尖る。
「誰だろ。」
私はビールを口に含み、ゴクンと飲み込む。
「好きな子……いるんじゃないのか?」
「……いないって言ったじゃん。」
いるだろ、どうみてもその言い方は。
「その子は学校の子?」
「いないって……。」
「バイト先?」
何も言わず、ペットボトルから顎を外し俯く。
「俺、明日の用意するわ。」
ペットボトルを持って立ち上がる。
「翔?」
驚いた顔をして、智が私を見る。
「どうして?」
私を見ていた智が頭を振る。
「理由なんかないか。父ちゃんは俺の父ちゃんだもんな。
見てたらわかっちゃうか。」
智が苦しそうに笑う。
「そうだよ、俺が好きなのは翔ちゃん。
翔ちゃんが一番。一番大好き。でも、内緒ね。
そんなこと言ったら、翔ちゃんが困っちゃうから。」
智は無理に笑ったまま、私の前を去る。
私はゆっくりビールを飲み、空になったグラスを見つめる。
なんだ。
両想いじゃないか。
男同士、兄弟で両想い……。
え?本当に!?
こんなことあるか!?
あっていいのか!?