雅紀の後でシャワーを浴びて、猛ダッシュで着替えると、
ドライヤーしてる潤が鏡越しにニヤリと笑う。
「水も滴るいい男。」
「だろ?」
わざとカッコつけて前髪を掻き上げると、潤が楽しそうに笑う。
「ほら、そっちで見惚れてるぞ。」
潤の視線の先を見ると、着替え終わった大野が半開きの口で、
ボケラ~っとしてる。
「大野?」
声を掛けるとハッとして、恥ずかしそうに首筋に手をやる。
「ご、ごめん……。」
2、3度首を撫で、恥ずかしそうに笑う大野の髪がサラッと揺れる。
だから!
そういう仕草が色っぽいのはなんでなんだっ!
男だろ!?
ドキドキするだろーがっ!
「やっぱり俺、櫻井君の顔、好きみたい。
一瞬、翔子ちゃんかと思った。」
ふにゃっと笑った顔にまたドキッとする。
俺、大野といると病気かってくらいドキドキすんだけど。
マジやばくない?
「しょうこちゃん……?」
雅紀が不思議そうに首を傾げる。
やばっ!
「あ、あ~~~ああぁあ!」
声を上げながら、大野の肩を抱き込んでロッカールームの端まで連れて行く。
「みんなに言ってないの。」
早口でそう言うと、きょとんとした顔で見上げられ、その上目遣いの視線が……。
可愛いじゃないの!
そこらの女の子より、ずっと可愛いじゃないのよ!
「言ってないの?」
「なんか……恥ずかしいじゃん?今までいなかったのに突然現れたら。」
小声で囁き合う俺ら。
「そういうもんかなぁ。」
「そういうもん!」
「……わかった。」
「何、コソコソしゃべってんの~?」
肩をガシッと掴まれて振り返ると、雅紀が意地悪そうな顔で見てて。
「な、なんでもないよ!」
「うそうそ、なんでもないって顔してないじゃん!」
「なんでもないよっ!」
雅紀の腕を振り解き、チラッと大野を見ると、大野もフワッと笑って援護射撃してくれる。
「ほんとになんでもないんだよ。
あんまり俺の顔好きとか言うなって怒られてたの。」
「怒られちゃったの?」
雅紀が同情するように目を細める。
「うん、恥ずかしいんだって。」
「え~、翔ちゃんが?」
「褒めるとカッコつける翔ちゃんが?」
潤、そこで入ってくんな!
「そうだよそうだよ!翔ちゃんが恥ずかしがるわけないじゃん!」
俺っていったいどんなキャラよ。
ずっと黙って見ていた二宮がクスクス笑いながら大野の隣に並ぶ。
「そろそろ行かないとカフェ、予約してんじゃないの?」
「おっとそうだった!」
慌てた潤が時計を見てドライヤーを片づける。
「濡れたままだよ。」
大野が俺の肩の辺りの髪を摘まむ。
「あ、お、俺は平気。いつもこのままだし。」
この近さじゃやばい!
俺のドキドキ聞こえちゃう!
慌てて体を引いたら大野が変に思うかもしれないと思うと、身動きもとれない。
「そのままじゃ風邪引くよ。」
「ま、まだ大丈夫!冬じゃないし!」
摘まんだ指先についた水分を見て、大野の眉がハの字になる。
「先行ってて。櫻井君の髪、乾かしてから行く。」
そう言うと、大野がドライヤーを用意し始める。
「いいよ、大丈夫だから。」
大野の腕を掴むと、大野がキッと睨んでくる。
「よくない。具合悪くて保健室行ったばっかりじゃん!」
ばっかりって……あれ、月曜日じゃなかった?
今日、もう土曜日。
ほぼ一週間前の話!
無理やり鏡の前の椅子に座らされて、両手で前を向かされる。
潤と雅紀が面白そうにニヤニヤしだして。
「わかった。先行ってるわ。」
「うん。」
ニコニコ手を振る大野に、二宮がふぅと溜め息を吐く。
「道、わかる?」
「だいじょぶ。わかんなかったら電話する~。」
「ほらほら行くよ?この先は美容師さんにお任せして。」
雅紀が両手で二宮の肩を掴み、クルッと向きを変える。
「そうそう、若い二人にね!」
潤も先に立ってドアを開ける。
なんだよ、若い二人って!
お前らも同い歳!
え?マジで行っちゃうの?
俺、大野と二人きり!?
「ちょ、ちょっと!」
雅紀たちに向かって手を伸ばすと、大野がその手を元に戻す。
「すぐ済むよ。乾かすだけだから。」
髪なんかどうでもいいんだよ!
この立ち位置!
んで、大野の手が俺の髪をわさわさ撫でるとか~!
俺の心臓、どこまで持つ!?
ダメだ!
大野にバレたら不審がられる~っ!
「お客様、ちょっと下向いてもらっていいですか~?」
大野がノリノリでドライヤーのスイッチを入れる。
「え、あ、いいよ、俺が自分でやるから!」
振り返ってそう言うと、大野の眉がハの字になって、顔にドライヤーをかけられる。
「いいから、大人しく前向いてなさい。ね?」
なぜか説得力のある物言いに、頷く俺。
もう、ドキドキがバレたら、
大野が真剣にドライヤーかけるのが怖かったって言い訳しよう!
もう、なるようになるしかない!
ドライヤーが、右耳の上辺りを撫でつけて、水しぶきが顔に飛んでぎゅっと目をつぶった。