【嵐に伝えよう愛の言の葉】
「あ~、また連絡する。じゃ。」
スマホを切った翔君が、荷物をドサッと空いた席に置く。
「ごめんごめん、待った?」
こっちを見て、申し訳なさそうにおでこに皺を寄せる。
ゆっくり首を振ると、ホッとしたように、おでこがなだらかになる。
「よかった。」
チラッとメニューを見て、店員を見上げる。
「カフェオレで。」
店員が会釈して帰って行くと、こっちを見て、ニッと笑う。
「忙しい?ちょっとはゆっくりできてる?」
笑ってうなずくと、目の前のお冷をゴクゴク飲みだす。
「ごめん、急いで来たから喉乾いた。」
そんな翔君が可愛くて、緊張が少し解ける。
「なに?飲み方変だった?」
首を振ると、口の端についた水を指の背で拭う。
「俺見て笑うんだもん。」
その言い方も可愛くて、さらに笑うと、翔君にも笑顔が広がる。
「そうそう、この間、懐かしい顔に会ったよ。仕事で。
ほら、覚えてる?5年前くらいかな?BBQで会った、背の高い結構なイケメン。
変わってて全然思い出せなくてさ。
言われるまで気づかなかった!」
5年前?誰だろ?
思い出そうと首を傾げると、翔君が笑う。
「きっと思い出しても会ったらわからないよ。
すっごく変わっててびっくりしたんだから。
髭は伸ばしてるわ、頭はモヒカンだわ。」
話してる翔君の前にカフェオレが置かれ、翔君が手でありがとうのポーズをとる。
カフェオレを飲みながら、上目遣いにこっちを見る顔にドキッとする。
「久しぶりに笑顔見れてよかった。」
それはモヒカンのこと?
それとも……?
きょとんとしていると、口からカップを離した翔君がニコッと笑う。
「あなたの笑顔見るとホッとする。」
顔が熱くなって、横を向く。
翔君がカップを置いた音がする。
「横向いてるとずっと見てられる。」
え?と思って向き直ると、翔君がクスッと笑う。
「次に会ったら絶対言おうと決めてたんだ。」
翔君が肘をついて、顎の下で両手を組む。
何を?
まさか……。
まさかね。
あり得ない。
でも……。
優しい顔で笑う翔君。
もしかしたら……?
開きかけた翔君の口を見て、思わず声が出る。
「翔君が好き!」
なぜか翔君より先に言いたくて、早口でそう言うと、ポカンとした顔が笑う。
「あははは。俺も。」
長い指がおでこを撫でながら、少し恥ずかしそうにこっちを見る。
「俺もあなたが好き。……先に言いたかったのに。」
翔君と顔を見合わせ、照れ臭くて笑う。
この空気をどうしたらいいかわからない。
わからないけど、嬉しい。
同じ気持ちだった……。
「じゃあさ、今度時間見つけて旅行行こうよ、二人で。
計画するからさ。付き合うんだから、いいよね?」
手帳とタブレットを広げ、ペンを取り出す翔君。
こっちを見る目が優しくて、やっぱり照れ臭い。
でも……そんな翔君が大好き!ずっと一緒にいたい!
だけど……そんな顔でずっと見られたら……溶けちゃうよ、翔君!
「早いね。」
智君が向いの席に座る。
「コーヒーで。」
店員を見上げて柔らかい笑顔を向ける。
その笑顔のまま、こっちに視線を移す智君。
猫背の背にも、肩にも力が入っていない。
リラックスした智君が、ふにゃっと笑う。
「忙しそうだね。」
そうでもないと言おうとして、智君の笑顔で口が止まる。
「仕事があるのはいいけど、体には気を付けるんだぞ。
健康第一!」
智君がふにゃふにゃと笑っておしぼりで手を拭く。
「忙しくなると食べるのも寝るのも適当になりがちじゃん。
でも体が資本だかんな。」
うなずいてコーヒーを飲むと、智君の前にもコーヒーがやってくる。
「ありがと。」
店員に向ける笑顔が優しくて、こっちを見て欲しくなる。
思わず智君の腕を引くと、智君が、ん?と首を傾げる。
「どした?」
どうしたってわけじゃないけど……。
何も言わずうつむく。
智君の柔らかい匂いが香って来る。
チラッと顔を上げると、智君が前のめにりになって、こっちを見てる。
「言いたいことある?なんでも聞くよ。言ってみ。」
なんでも……。
本当になんでもいい?
見上げると、なんでも許してくれそうな顔で笑ってる。
その顔に勇気をもらって、背筋を伸ばす。
まっすぐに智君を見て、大きく息を吸う。
智君は何も言わず、リラックスした様子でコーヒーを飲む。
「智君が……好き。」
思い切って声に出す。
言った!
やっと言えた!
目はつぶっちゃったけど。
言った後、薄目を開けて智君を見ると、困ったような顔でソッポを向いてる。
あ……困るよね。
突然そんなこと言われても……。
胸がぎゅっと詰まって、下を向く。
すぐにでもここから逃げ出したい。
「なんだよ、それ。」
智君がポツリと言う。
「俺がどんだけ我慢してたと思ってんだ?」
我慢……?
顔を上げて智君を見ると、智君がふにゃっと笑う。
「言っちゃいけないと思って、ずっと我慢してたんだぞ。」
え……それって……。
「これからは毎日言うからな?お前が好きだって。」
智君が照れ臭そうに笑う。
ああ、毎日言われたら……。
心臓持つかな?
持たなくてもいい!
智君が大好き!!!
ずっとずっと大好き!
相手は自分でも、好きなCPでもOK!
バレンタインだもん。
みんなで愛を叫ぼう!(笑)