「あ~、パンツまでびしょびしょ。」
ショウが濡れた服を引っ張って背中を見ようとする。
背中が濡れてるのはお前の汗だろ、
お前、結構汗っかきだぞ。
クスクス笑いながら、ドカッとベンチに腰かける。
あ……次に座る人に迷惑か?
ま、いっか。今日は許してもらおう!
「腹減った~。」
コンビニの袋からおにぎりを取り出し、一つショウに差し出す。
不思議そうにコンビニおにぎりを見るショウに、俺も取り出してショウに見せる。
「こうやって食べんだよ。」
真ん中のビニールを引っ張り、開け方を見せてやる。
「へぇ~、なるほど。上手くできてるんだね~。」
ビニールを外すとキレイに海苔が巻かれる。
できるだけ大きな口を開けておにぎりに齧り付く。
あ~、明太子~。
うまっ。
お腹に染みてく~。
お茶をゴクゴクと飲み、あっという間におにぎりを平らげてショウを見る。
ショウは口いっぱいにおにぎりを押し込み、頬を膨らませてモグモグしてる。
なんか、リスみてぇ。
そんなにがっつかなくてもおにぎりは逃げないよ?
口の端についたご飯粒を取ってあげて、自分の口に押し込む。
ショウが嬉しそうに笑って口の中の物を飲み込む。
「ふは~、美味しい。」
「な?旨いだろ。こうやって食べんのも。」
空を見上げると、大きく伸びた枝の端から青い空が見える。
あぁ、いいね。
いい感じ!
気持ちいい!
惣菜のパックを取り出し、サラダを広げる。
彩りばっちりのポテサラと生春巻き。
野菜もちゃんと取ってんぞ、母ちゃん!
割りばしを割り、ポテサラを口に入れる。
ショウも割りばしで生春巻きを口に頬張る。
ちょっと透けてるエビがおしゃれ。
口に入れた途端、ショウが変な顔をする。
「どうした?」
どんどん上から顔が青くなっていく。
「詰まったか?」
ショウのカフェラテを取り出し、キャップを開けて手に握らせる。
「ほら、飲め!」
ブンブンと首を横に振る。
「飲まないと息できなくなるぞ。」
それでもブンブンと首を振り、口を膨らませたまま、青い顔して俺を見つめる。
見つめる目が……潤んでくる。
そんなに苦しいのか!?
だったら飲めばいいのに!
無理やり飲まそうとペットボトルを口に持って行くと、嫌がって顔を振る。
「なんだよ、どうしたいんだよ!?」
涙がいっぱいに溜まった目が、苦しそうに細くなる。
目尻からこぼれ落ちる涙。
「だったら、これに吐き出せ。」
おにぎりを入れていたビニール袋を、ショウの前に広げる。
苦しそうに眉間を寄せたショウが、それに顔を突っ込む。
しばらくして顔を上げたショウは、涙目のまますっきりした顔で……。
「何、これ、まじぃ。」
やっと俺からペットボトルを受け取って、ゴクゴクと流し込む。
まるで口の中をキレイにするみたいに。
「まずい?」
「すっごくまずい!」
陽ざしで腐ったのかな?
買ったばっかりだぞ?
俺も一つ口に入れてみる。
ヒヤッとした食感とパクチーの香。
噛んでいくと広がるチリソース。
ん~……まずいか?
美味しいぞ?
俺が美味しそうにモグモグする顔を見て、ショウが不満そうに口をへの字にする。
「よく食べられるね?」
「うまいぞ?」
ショウは、トレイごと生春巻きを自分の顔に近づける。
「うっわ!何この匂い!」
匂い……?
……パクチー?
生春巻きからパクチーの葉っぱを取り出し、ショウの顔に近づける。
「うわっ!こんなのよく食べられるね!」
体ごと飛び退いたショウが、顔を背ける。
その姿がおかしくて、思わず楽しくなった俺は……。
「この美味しさがわからないかぁ~、子供だな?」
カチンと来たショウが、ベンチに肘を付き、足を組む。
「ああ、そうだね。僕は子供だよ。だからそのまずいのは智が一人で食べればいい。
僕は……。」
そう言って、サラダを取り上げると、箸でガッと口にかっ込む。
「えっ?」
「これは僕が食べるから、智はそっち食べなよ。美味しいんでしょ?」
そうじゃねぇだろ!
俺だってポテサラ食いたい!
「待てっ!俺のポテサラっ!」
ショウは俺を避けながら、最後の一口まで口に入れ……。
頬を限界まで膨らませたリスみたいな顔で、モグモグしながら俺を見る。
してやったりの満足そうなイケメンリス。
「んふふ、んははははっ!」
そういうのが子供だっての!
「なんだよ、何がおかしい?」
おかしいに決まってんじゃん!
こんなイケメンが子供みたいに拗ねたらさ!
ショウがまたカフェラテをゴクゴク飲む。
少し上を向いた喉がスッとしていてキレイ。
陽ざしにキラキラ光る汗。
波のように動く喉から鎖骨。
俺の理想のイケメンは仕草までイケメン!
でも……何か変?
俺もお茶を飲んで見る。
自分は見えないから違いがわからない。
でも、何か違和感……。
あ……喉仏作るの忘れてた!