ショウが出て行くと、サトシは二人を廊下に下し、脱衣所に向かう。
いっぱいになっている洗濯機の蓋を閉め、ボタンを押す。
グッ、グッと洗濯機が動きだし、ノアとブランがサトシの後ろに隠れる。
「何これ?」
「音が気持ちわる~!」
機械音を聞いたことのないノアがブルッと震える。
「そう?面白そうじゃない?」
サトシの後ろから顔を出して興味津々のブランを、サトシが手で追い立てる。
「さ、洗濯機は危ないからね~。」
「昨日、あの中だったんだよね?」
「動いてる時に入りたい!」
「え~、絶対やだ!」
「ノアの怖がり!」
「ブランの強がり!」
二人は追いかけっこをしながらリビングを走り回る。
「窓開けるけど、遠くに行っちゃダメだよ?庭までね。」
「にわ?にわって何?」
「囲いの中ってことじゃない?」
「この狭いとこから出ちゃダメなの?」
「外は動くものがいっぱいだから、危ないんだって。」
「誰が言ったの?サトシ?」
「違う……トラさん。」
「トラさん?」
「もうすぐ来るよ!」
一頻り、庭を走り回ったノアとブランは、
ハーブに水をやるサトシの足元で、盛り上がった土を崩す。
「汚れちゃうよ。」
サトシが足元に声を掛ける。
「そうだよ、ブランの毛、白いんだもん、汚れちゃったらもったいない!」
「ノアだって、ツヤツヤなんだから、ちゃんと綺麗にしてなくちゃ。」
そう言いながら、二人は柔らかい土の上でじゃれだす。
「あ~、もう、しょうがないなぁ。」
サトシはパタパタと家の中に戻って行く。
ノアとブランもサトシの後を追い掛ける。
「ダメ。そのまま入って来ちゃ。」
サトシに言われ、ビクッとして、リビングの窓枠から前足を離す。
少し声を張ると、サトシの声はママンにそっくりで、体が勝手に反応する。
「待ってなきゃいけないの?」
「汚れてるから?」
ノアとブランはお互いを見つめる。
ノアの腹には土が、ブランの足には草が付いている。
二人はブルブルっと体を震わせ、土と草を払い落す。
「これできれい?」
「うん、きれい!」
サトシがバスタオルと濡れタオルを持って来ると、二人がまたリビングに上ろうと
ジャンプの体勢をとる。
「待って、家に入る時はちゃんと足拭かないと!」
サトシは窓の近くにバスタオルを広げ、ブランを抱き上げて胡坐を掻く。
胡坐の中央にブランを寝かせ、四肢を拭いて行く。
「んふふっ、くすぐったい!」
肉球の間まで綺麗に拭かれると、ブランが体を捩って抵抗する。
「ほら、じっとして。すぐ終わるから。」
最後に右の後ろ脚を拭かれ、サトシの腕から逃れると、尻尾を立ててサトシを見上げる。
「拭かなくても綺麗なのに。」
「ダメなんだって~。」
今度はノアが抱き上げられ、サトシに足を拭かれる。
「ノアは初めてじゃないんだから、大人しくしてよ?」
言われるまま大人しく足を投げ出すノアを見て、ブランがふんっと顔を上げる。
「サトシはママンじゃないんだぞ。」
意地悪くそう言うブランに、ノアが言い返す。
「ショウだって帝王様じゃないんだから!」
図星を突かれ、ブランがノアに飛びかかろうとしたところを、サトシに抱きあげられる。
「ほんとに仲良しだね?仲がいいほどケンカする!」
ノアとブランが顔を見合わせる。
ママンがよく言っていた言葉。
二人がケンカするたび、そう言って二人一緒に抱っこしてくれた。
「さ、ちょっと待ってて。虎次郎が来たら、おやつ出してあげるから。」
サトシは庭に下り、ジョウロを手にする。
「虎次郎ってトラさん?」
「そう、めっちゃめちゃ頼りになるおじさん!」
ノアがバスタオルの上で丸くなると、背中をくっつけるようにブランも丸くなる。
サトシのジョウロから、水がナスに注がれる。
キラキラ光るジョウロの水は、すぐに消えてしまって、虹の欠片より綺麗に見えた。