帝王様と凪が帰って来ると、地獄の空の雲が渦を巻く。
暗いグレーの雲がとぐろを巻き、その中心、
バベルの塔から大きな炎が宮に向かって伸びる。
「あ、ショウ君、帰って来たね?」
ヴェールとジョーンヌに歌を教えていた智の顔がパッと輝く。
「パパ?」
ヴェールが黒い瞳を智に向ける。
「そうだよ。パパが帰ってきたんだ。ご挨拶に行こうか?」
「うん!」
返事をしたジョーンヌが、智に向かって両手を広げる。
智がジョーンヌを抱っこすると、負けじとヴェールも手を広げる。
「ヴェールも!」
智は笑って、ヴェールも抱き上げる。
「ヴェールはもうしっかり飛べるよ?
飛べるとこ、パパに見せてあげないの?」
すると、ヴェールは智から手を離し、空中で羽を広げる。
「うん、上手。綺麗に開けてるよ。そのままパパのとこまで頑張ろうか?」
「う、うんっ!」
真剣な表情のヴェールが、小さく羽を羽ばたかせ、よちよちとヤマの間(執務室)に向かう。
智はジョーンヌの伸ばした指に小さくキスし、パクパクして笑わせながら、
隣のヴェールを見守り歩を進める。
ヤマの間まで……30分くらいかかるかな?と思ったが、
一生懸命飛んでいるヴェールを、止める気にはならなかった。
すぐにノアとブランがヤマの間に呼ばれた。
帝王様の隣には、凪と一緒に№0617が並ぶ。
ノアとブランがヤマの間に来ることはほとんどない。
ここは帝王様や凪が仕事をする所で、
子供の来るところではないと、きつく言われているからだ。
ここでも帝王様は玉座に座り、右足を左足の膝に乗せている。
ノアとブランは神妙な面持ちで、帝王様の前に跪く。
「お前たちの継承式が決まった。」
帝王様の声は低い。
ノアはゴクリと息を飲む。
「凪様の話ではなかったのですか!?」
ブランが声を荒げる。
「凪の話をすれば、自然、そういう話になる。」
帝王様は面白くなさそうにそっぽを向く。
「お前たちが14歳を迎える誕生日、
その日に天界、地獄、同刻を持って、継承の儀が執り行われる。
ノアは天界へ行き、ミカエルの力を分け与えられる。」
「ミカエル様の……?」
「そうだ。ミカエルの力を受け継ぎ……天界を統治する。」
「僕は……。」
ブランが半歩前に出る。
「お前は……そのままアスタロトとの婚儀が執り行われる。」
「えっ……。」
わかっていても、目の前に突き付けられる現実に、ブランが身を引く。
ノアは、そんなブランを見つめる。
「ブラン……。」
「ノア……。」
珍しく、心細そうな声に、ノアがそっとブランの手を握る。