「家族会議は終りましたか?」
低いトーンの声に、帝王様と智が振り返る。
「凪!」
「あんなに大声で叫んだら、地獄が壊れてしまいます。」
凪の後ろには、ホッと胸をなで下ろした№0617の姿が見える。
「あれくらいで壊れるほどヤワに作った覚えはない!」
「ええ、ええ、私もですよ?ですが、バベルの塔は違います。
一部破損したと連絡がありました。」
凪の冷ややかな目が、帝王様を一瞥する。
「お前とミカエルが作ったものだからな。
造りが甘いんだ。」
「そうでしょうとも。ですが……これからは智様が3ヶ月毎に使われるもの……。」
ハッとした帝王様が腕を翻す。
「早急に修理しろ!俺様の声どころか、ミカエルの光の矢が当たっても壊れない
鉄壁な塔に作りかえる!」
「はっ。」
№0617が姿勢を正す。
「この宮と同じくらい安全なものを作れ!
智と子供たちに何かあったら……俺様が地獄を破壊してくれるわっ!」
「ははっ。」
今度は№0617が御意の姿勢を取る。
「おいら達だけじゃなく、みんなの安全の為にね?」
智がにっこり笑うと、№0617がシュタッと羽を広げ、凪の指示を待つ。
「行きなさい。破損は大したことなさそうですが、大きくなっては困る。
天界からも出向いてるようですし。」
「では!」
№617が飛び立つ。
いなくなったのを確認して、凪がふぅと溜め息をつく。
「智様が天界に帰ると聞いただけで塔を壊すなぞ……。
ご自分の立場、御力をまだお分かりいただけてないようでございますね?」
「うるさいわっ。」
「とりあえずは……家族会議も終わったようですし……。」
凪が智に向き直る。
「智様、御子たちをどうぞよろしくお願いします。」
凪が頭を下げると、智がクスッと笑う。
「うん。でも、子供たちもいつまでも子供じゃないから。」
「そうでございましょうとも。いつまでも子供なのは帝王様だけでございます。」
「んふふ。そこが可愛いんだけどね?」
智が帝王様を見上げると、帝王様が不満そうに眉山を上げる。
「俺様が子供だと?」
「いつまでも子供の心を忘れないってことだよ?」
帝王様は当たり前だと言わんばかりに顎を上げる。
「俺様は何も忘れん!子供の心だろうが、智の愛だろうが!」
「だから……気付いても気付かないふり、してくれてるんでしょ?」
智がノアとブランをチラッと見る。
「子供は……やってみて気づくものだ。特に二人は……。」
帝王様も二人を見つめる。
「統治者になってしまってからでは……何もできない。」
「ショウ君……。」
智が帝王様の腕に抱き着く。
「だから好き!」
「智……。」
子供たちの前ですら、帝王様に抱き着くことなどない智が、
凪がいるにもかかわらず、抱き着いてきたことに驚いた帝王様が、一瞬目を見開く。
「帝王様……知ってたの?」
帝王様はブランの頭を撫で、ノアを見る。
「楽しかったか?人間界は。」
「楽しかった!いろいろ見たんだよ?みんなのお仕事も……初めて目にした!」
「そうか。」
帝王様が微笑むと、凪がスッと前に出る。
「これで……時期統治者も決まりましたことですし……。
そろそろ私も引退しようかと……。」
「引退?」
智が眉を上げる。
「はい。私もいい歳です。余生は好きなように過ごしたい。」
「ふんっ、何を言ってるんだ。お前が仕事なしでいられるわけなかろう。」
「いいじゃん、ショウ君!凪様はずっと働きづめだったんだから。」
智が凪に向き直る。
「後継者は決まったの?」
「はい。教育係はこのままウリエル様に……。
その他は、№0617に任せようかと。」
「そっか。ちゃんと考えてるんだね。うん、いいよ。」
「智っ!」
帝王様が目を剥いて智を見る。
智はそんな帝王様を無視したまま、凪と話を続ける。
「で、何がしたいの?」
「落ち着きましたら……人間界に、転生しとうございます。」
「「「「人間界に!?」」」」
驚きのあまり、口が開いたままの四人を見渡し、凪がわずかに頬を上げた。