結局、可愛く首を傾げるノアに負けて、ベッドの隣にノアの寝床を置く。
「これなら寂しくないね?」
ついでにトイレも置いておく。
ノアがトイレでできるかどうかわからないけど……、小さいショウ君ならできる?
おいら達がベッドに入ると、首を傾げたノアがベッドに飛び乗ろうとして落っこちる。
「ノア!」
ショウ君が手を出すと、ペロペロとショウ君の手を舐める。
「寂しいの?」
横向きのショウ君越しにノアを見る。
「ミャア~。」
ノアがショウ君の腕を登ろうとする。
「しょうがないなぁ。」
ショウ君はノアを掴んで仰向けになると、胸の上に乗せる。
「今日だけだぞ?俺ら欲求不満になっちゃうからな。」
「んふふ、ショウ君……。」
そうだよね。
優しいショウ君が、寂しがるノアを置いておけるわけがない。
ノアは、そんなこと知らないって感じでショウ君の上に寝そべった。
「おい~、ここで寝るのか?ここはさすがに……。」
ショウ君が寝返り打てなくなっちゃう。
でもノアの気持ち、わかる。
ショウ君の鼓動と温かさを感じたら……スヤスヤ眠れそうだもんね?
「少しだけ、このままにしてあげて。
ショウ君の上、気持ちいいんだよ。」
おいらもノアの背中を撫でる。
小さな前足を枕に、目をつぶるノアは……最高に可愛い。
「潰しちゃいそうで怖いな?」
戸惑いがちなショウ君も可愛いけどね?
「大丈夫。ちょっとだけ……。」
「くすぐったいし……。」
ノアの髭が、ショウ君の胸をくすぐってる?
パジャマの上からだから、余計くすぐったい?
「でも……幸せそうだよ?」
「ん……。」
ショウ君の顔が優しく穏やかで……。
おいらは体を伸ばしてショウ君の頬にキスする。
「今日は、できないのか……こいつのせいで。」
ショウ君が人差し指でノアの髭をピンッと弾く。
「んふふ、あんまり残念そうじゃないよ?」
おいらはもう一度、ショウ君の頬にキスをする。
「そんなショウ君だから……大好き……。」
もう一度唇を差し出すと、今度はショウ君がおいらの方を向く。
唇と唇が重なって、でも、ノアが起きないように、
ゆっくりと優しいキスを堪能した。
次の日、ノアと一緒にショウ君をお見送りすると、
ショウ君が、デレッデレの顔でノアに頬ずりする。
「おみやげは何がいいかな?おもちゃ?おやつ?」
「ショウ君!」
おいらが少し大きな声を上げると、ショウ君が口を尖らす。
「だって、すぐ帰っちゃうかもしれないんだよ?
いるうちはめいっぱい可愛がりたい!」
「本当に……返せなくなっちゃうよ?」
「だ、大丈夫だよ。」
「ほんとに?」
「……仕方ないだろ?こいつ、サトシに似てるんだから。」
「おいらに?」
「見た目の可愛さって言うより……性格?」
「おいらに似てる?」
「猫だから気まぐれなところもあるけど、可愛がるとはにかんだみたいに照れるとこ。
すっごく似てる。」
「ショウ君……。」
それは……誰だって恥ずかしくなるよ、ショウ君の顔見たら!
「昨日だって、俺の胸でスヤスヤ眠るとこなんて、サトシみたいで……。
小さなサトシを抱いてるみたいで……。」
ショウ君の顔がこれ以上ないくらいデレっとして、ノアの頭を撫でる。
「早く帰ってくるからね。サトシと一緒にいい子にしててね。」
ノアが、ミャア~と鳴く。
おいら達はノアの上で甘いキスをして……なかなか離れないキスをして……。
「ショウ君、遅刻しちゃう!」
「おっと、いけね!」
ショウ君が慌てて飛び出して行った。
おいらとノアは顔を見合わせ、ふぅと溜め息をつく。
……泣くな。
ノアが帰る時。
おいらはショウ君をどう慰めようか考えながら、ノアをリビングに離す。
今日は少し仕事したいな……。
そう思いながら、庭の窓を開ける。
たぶん、ノアは窓を開けても逃げない。
少なくとも、ブランを見つけるまでは。
なぜかそんな自信があって、ノアを日当りのいい窓際に座らせ、
虎次郎の来るのを待つ。
茄子とミニトマトに水を上げていると、右の方がガサガサしだす。
のそりと姿を現す虎次郎。
ちょっとふてぶてしい顔付きで、庭をギョロッと見回して、
のっしのっしといつもの場所へやってくる。
大きな体を横にするのを合図に、用意しておいた水と煮干しを差し出した。
「ねぇ、虎次郎?虎次郎はこの辺の猫のことなら何でも知ってるよね……。」
いつもの場所で、煮干しを齧っていた虎次郎が、目だけ、おいらに向ける。
「ノアの双子のブランって……どこにいるかわかる?」
虎次郎に聞いたってわかるわけないんだけど……。
なんとなく、聞いてみたくなる。
そんな風貌の虎次郎。
どうみても、この辺の猫のボスって感じなんだもん。
隣のお婆さんも虎次郎のこと、タマって呼んで餌あげてたし……。
おいらは窓枠に座って、ノアを抱きあげる。
「どうしても探して欲しいんだって。」
ノアもミャア~と鳴く。
虎次郎は最後の煮干しを飲み込んで、低い声でミャ~ゴと鳴く。
虎次郎の細い目が、さらに細くなってキラッと光る。
すると、リビングでおいらの携帯が鳴った。