つなぐ 三十六帖 | TRIP 嵐 妄想小説

TRIP 嵐 妄想小説

嵐さん大好き♡
智君担当♪山好き♡で
皆様のブログを見ているうちに書きたくなってしまいました。
妄想小説です。腐っているので注意してください!
タイトルに愛を込めて、嵐さんの曲名を使わせていただいてます。
ご理解いただけると嬉しいです。

 


「わしは1000年生きた。」

男の指が櫻井の頬を撫でる。

「もう、十分だ。わしはもう、精気は吸わぬ。」

「なぜ?私の為と思うなら……。」

櫻井が男を見つめると、男はゆっくり首を振る。

「そうではない。本当にもう十分なのだ。

 なに、お前よりは長く生きるから安心しろ。」

「智……。」

男は赤子の頬を撫でる。

「わしは強い。」

「……はい。誰よりも強く気高い。」

櫻井は男の手を見つめる。

細く長い指が、赤子の頬に当たる産着を避ける。

「わしは自分の終わりを自分で決めねばならん。」

「それは、どういう意味……?」

「わしの血族を作らなければ、わしは死ねんということだ。」

櫻井はじっと男を見つめる。

「子を作れば、わしの寿命は尽きる。

 精気も吸わなくなる。一石二鳥だ。」

「なぜ……、なぜ終わりを決めたのです?

 何度も言いますが、私の為なら……。」

男は櫻井の 唇 に 唇 を押し当てる。

柔らかい感触が、櫻井の口の中に入り込んでくる。

櫻井も、赤子を気にしながら、舌 を 絡 め、男の 唇 を受け入れる。

男は 唇 を離し、櫻井の瞳を見つめる。

「お前の為ではない。わしの為だ。

 わしがここで!お前と!終わりにしようと決めたのだ。」

「そんな……それでは……。」

櫻井は言葉を飲み込む。

男を否定しようとしても、内から込み上げる想いの大きさに、

自分でもどうすることもできない。

「なんだ、そんなに嬉しいのか?」

男がにやりと笑う。

「え?」

赤子の頬に、ポタリと櫻井の涙が落ちる。

「嬉しいのだろう?」

男がからかうように言う。

「……どうやら……嬉しい……みたいですな。

 私としたことが、嬉しくて……自分でも、どうすればいいのかわからないくらい、

 混乱しているようです……。」

「ふふふ。愛い(うい)奴じゃ」

男が櫻井の目元を拭う。

男の手が櫻井の後頭部を掴み、もう一度 唇 を合わせる。

「本当に……いいのですか?」

男は櫻井の額に額を合わせる。

「ああ、わしが決めたことだ。」

「でも……。」

「もう引き返せん。」

「それはそうでしょうけど……。」

「グダグダ言うな。お前が掛けた術だろう?」

「私が掛けたのは……。」

男が櫻井の唇に人差し指を当てる。

「わしの名を呼ぶのは一生お前だけだ。

 お前に呼ばれれば、いつ、いかなる時でもわしはお前のところにやって来る。

 それがお前の術だ。」

櫻井はクスッと笑って、小さくうなずく。

しかし、すぐに眉間に皺を寄せる。

「どうした?お前が迷惑だと言ってももう遅いぞ?」

「いえ……そうではありません。

 そうではなくて……雅紀さんのことが……。」

男は、ああと大きくうなずく。

「案ずるな。」

男の手が、赤子の頭を撫でる。

「わしとお前の子だ。さぞかし強い子に育つであろうな?」

櫻井も、そうかと赤子を見つめる。

「この子は……どんな子に育つのでしょうね?」

「お前に似て、頭のいい、優しい子に育つだろう。」

櫻井がクスッと笑う。

「あなたに似て、強く美しい子に育つでしょうな。」

二人が顔を見合わせ、笑い合っていると、大声で叫びながら、雅紀が駆け込んでくる。

「翔さ~ん!貰ってきました!」

雅紀がお椀に貰って来た乳を、男が小指でちょいちょいと突っつく。

その指を赤子の唇に当てると、赤子がチュウチュウと吸い付いてくる。

「いい吸い付きだ。こいつはきっと、お前に似て口吸いも上手いな?」

雅紀が顔を赤らめ、櫻井がメッと睨みを利かす。

「狐殿!」

男が声を上げて笑う。

雅紀も恥ずかしそうに二人を交互に見る。

櫻井は、愛おしそうに二人を見、赤子を見る。

「そうそう、まだ言ってませんでしたね。」

櫻井は改まって男を見つめる。

「おかえりなさい。」

雅紀も続けて言う。

「おかえりなさい。」

男が答える。

「ただいま……帰ったぞ。」

赤子が、ふにゃぁと声を上げる。

「わぁっ、もう、わかるみたいですね?」

雅紀が赤子を見つめると、櫻井は雅紀の頭を撫でる。

「この子を助けて、この子に助けられて、二人で助け合って生きて行くのですよ。」

「翔さん……?」

櫻井は窓から外を見上げる。

西に輝く星は今は見えない。

けれど、きっと、いつにも増して輝いているに違いない。

妖と人の間の子。

赤子にとって、それは幸せなことばかりではないかもしれない。

母親のことも、成長した時に、本当のことを説明しよう。

それでも……。

「翔さん!」

櫻井が考え込んでいると、雅紀が櫻井を呼ぶ。

「ああ、すまないね。」

雅紀が頬を膨らませて櫻井を見上げる。

「ちゃんと考えないと!」

「何をだ?」

男が首を傾げて雅紀を見る。

「赤ちゃんの名前!」

櫻井と男は顔を見合わせて笑う。

「そうでしたね。さて、どんな名にしましょうか……。」

三人の声が響き渡る中、お腹がいっぱいになった赤子はスヤスヤと寝息を立てる。

それに気づいた男が、腹の座った男になりそうだと、クスッと笑った。



「はる~!薬草取りに行くよ?」

「まって、まちゃき兄ちゃ!」

雅紀が立ち止まると、はると呼ばれた男の子が、てとてとと走って来る。

「翔さんと狐さんはちょっと妖退治に出掛けるから、

 今日から少しの間いないけど、寂しい?」

はるはブンブンと首を振る。

「だいじょぶ!兄ちゃがいるから!」

はるは雅紀の手を掴み、雅紀を見上げる。

「うん、私もはるがいるから寂しくないよ。」

はるが嬉しそうにふにゃりと笑い、雅紀もにっこり笑う。

「さ、行こうか?」

「あい!」

雅紀ははるに歩幅を合わせ、ゆっくり山に入って行く。

「これ!このあっぱ(葉っぱ)!」

「よくわかったね?帝の薬に使うやつ。」

「あい!」

「はるは賢い。」

雅紀が頭を撫でると、はるが上を向く。

はるの目に、どこまでも澄み渡る青空が映る。

「あ。」

はるが空の一点を見つめて立ち止まる。

「どうしました?」

「あちょこ!」

はるが空を指さす。

「あそこ?」

雅紀もその指さす方向を見つめる。

「ほち(星)!」

「どこに見えるの?私には見えないけど……。」

雅紀がどんなに目を凝らしてみても、昼間の青空で星が見えるわけもない。

「ひかってりゅ。」

西の方角を指さしたまま、じっと見つめるはるを見て、雅紀が笑う。

「見えるんですね。はるには、二人の星が。」

雅紀も空を見上げる。

「二人が仲良く妖退治したのかな?」

雅紀が笑ってそう言っても、はるはそこを動こうとしない。

「これは……もしかして、ケンカした?」

首を傾げ、はるが歩き出すのを待つが、なかなか歩きだそうとしない。

「はる!暗くなる前に戻らないと!

 こんなところでも、妖はいるからね?」

はるが、ふっと雅紀を見上げる。

「あい!」

笑顔で応え、並んで歩き出す。

「何を考えてるかわからないところは翔さんに似たのかな?」

はるの手を強く握ると、雅紀を見上げる。

大きな瞳に、通った鼻筋は大人びて、4歳にはとても見えない。

その秘めたる能力の高さが、嫌でも伝わってくる。

大きくなったら、どれほどのものになるのか。

雅紀は並んで歩き続ける。

1000年を生きる白狐と、当代随一と噂される陰陽師を親に持つ幼子。

字名を清明、幼名をはると言う。
 

 






                                                   終