「腹が減ったな。」
男は月を見上げながら、腹を擦る。
帝は二宮に付き添われ、寝室に薬司を呼ばれた。
薬司では、帝の容体はわからないであろうが、
ボロボロの内臓を元に戻すには、養生するしか方法はない。
あるいは……。
櫻井はそう考えて男に目を向ける。
城からの帰り道、櫻井と男は川沿いに差し掛かかったところだ。
「雅紀さんが美味しいご飯を作って待っていますよ。」
「それまで待てん。」
櫻井はクスッと笑って、男を見つめ、立ち止まる。
男も釣られて立ち止まる。
「今日はありがとうございました。
おかげで何事もなく妖を退治することができました。」
頭を下げる櫻井を見て、男が、ふんと鼻を鳴らす。
「わしは仕方なくやったまでのこと。
約束は覚えているな?」
「はい、もちろん。結界も解除いたしましょう。」
「だが、その前に……。」
男が櫻井に近寄り、顎を掴む。
「わしは疲れておる……。」
男の顔が櫻井に近づき、唇 が重なる。
重なった 唇 が、軽く開くと、男の 舌 が櫻井の 舌 を 絡 めとる。
繊細な 舌 先 の動きに、櫻井の腹の奥が、ズクッと 疼 く。
掻き混ぜるように 蹂 躙 し、味わうように 舌 先 で櫻井を刺激し続ける男の 舌 に
思わず声が漏れる。
「ん、んんっ……。」
櫻井の呻き声が、さらに男を 煽 る。
男の 舌 先 が、喉近くの上あごをくすぐると、櫻井の体がビクッと跳ねる。
気を良くした男が、櫻井の背に回した腕を腰の辺りまで下げ、グッと力を込める。
背が、弓なりに反らされ、口の中を男に良いように 弄 ばれたが、
櫻井は抵抗することなく、むしろ、誘うように 舌 を転がす。
櫻井の右手が、男の頬を包み、男の右手も櫻井の頬を包む。
愛 撫 するように 唇 を沿わせ、唾 液 を 貪 る。
絡 めた 舌 から伝わるゾクゾクするような 刺 激 が、二人を 昂 らせ、
頬に感じる手の温もりに、二人の胸の奥が掻き乱される。
男は 絡 めた 舌 を外し、唇 が 触 れるほどの距離で櫻井を見つめる。
「お前は……旨いな。」
ふわりと笑う男の顔に、櫻井も笑い返す。
「狐殿も……。」
「ふふふ、お前ら人にはわかるまい。人には味がある。」
「味?」
「そうだ。こうやって吸ってみればすぐわかる。」
男はまた櫻井に 唇 を当て、舌 先 で 歯 列 をなぞり、チュッと 吸 い付く。
「あっ……。」
不意をつかれ、無防備に合わせられた 唇 は微かに震える。
すぐに 唇 を離され、男がクスッと笑う。
「お前のは……甘く、いい香りがする。わし好みだ。」
好みと言う言葉に、櫻井の頬が染まる。
「狐殿は……口 吸 いが上手でございますな。」
「ふん、わしにとっては食事と変わらん。」
櫻井はクスクスと笑う。
「けれど……、まだ私の精気を吸ってはいないでしょう?」
図星を突かれ、男が櫻井から離れる。
「今すぐ吸ってやってもいいが……。」
男は一歩足を踏み出す。
「お前が一番旨い時に吸いたいからな?
鬼っ子の飯を食ってからのがいいだろう?」
櫻井はクスクス笑い続ける。
「それはそうですが……。
家に帰ってからでは、雅紀さんがいます。
子供には目の毒……。」
櫻井が言い終らぬ内に男がクルッと振り返る。
「では、今、この場でいいんだな?」
男の手が櫻井の肩にかかる。
「そ、それは……。」
「なんだ、不服か?」
「不服と申しますか……。」
櫻井は恥じらうように視線を逸らす。
「なんだ、言ってみろ。」
男は櫻井の顎を掴み、自分の方へ向けさせる。
櫻井は躊躇うように 下 唇 を 舐 め、男に視線を向ける。
「私の精気は……人より強くはありませんか?」
「……そうだな。確かにお前の気は強い。」
男が小さくうなずく。
「大事に使えば、当分の間、狐殿を満足させられやしませんか?」
「……だが、人とわしでは時の感覚が違いすぎる。」
「もちろん、人として、私が生きている間……と言う意味です。」
「ふん……。」
男には櫻井の言わんとすることがわからない。
イライラし出す男の 首 筋 に、櫻井の手が伸びる。
「私が生きている間は……私以外から精気を吸わないで頂きたいのです。」
「…………。」
男は無言で櫻井を見つめる。
「私だけに……してはくださいませんか?」
櫻井の 唇 が男の 唇 に落ちる。
男は櫻井にされるままになりながら、ただ櫻井を見つめる。
男がじっと見ていることに気付いて、櫻井が 唇 を離す。
「いやですか?」
「いやではないが……、お前の寿命が短くなるぞ?」
「だから……ゆっくり味わってくださいな……。」
再び、櫻井の 唇 が男の 唇 に落ちる。
今度は男の腕も、櫻井の背に添えられた。