「ご、ご飯作るね。」
おいらはショウ君に背を向けてキッチンに向かう。
「サトシ……。」
「今日は、あんまり時間なかったから……冷凍餃子でいい?」
冷凍庫を開けながらそう言うと、ショウ君が背中から抱き着いてくる。
「ひゃっ……。」
少し前かがみになった体勢のまま、ショウ君の体がおいらを包む。
「ショウ……君?」
首だけ後ろを向けると、ショウ君の頬をおいらの髪が撫でる。
「俺……サトシの前だけでいいから。カッコイイの。」
まだ情けない顔のショウ君。
「ショ……。」
ショウ君の腕の中で振り返って、ショウ君を見上げる。
「他のやつが何と言っても……そんなのはどうでもいい。
サトシが、サトシだけが俺をカッコいいと思ってくれれば。」
ちょっとうつむき加減のショウ君なんて珍しい。
おいらは両手でショウ君の頬を挟む。
「そんなのきっと無理。だって、ショウ君は誰が見たって、こんなにカッコいい。」
顔を近づけてじっとショウ君の顔を見つめる。
大きな瞳。
スッと通った鼻筋。
厚めで、艶っぽい唇。
誰が見たってかっこいい。
誰が見たって好きになる。
誰が見たって……この唇に触れたくなる。
おいらはそっとショウ君の唇に唇を重ねる。
柔らかく挟んで、ちょっと引っ張って、力の抜けた唇の間に舌を差し込む。
ショウ君の舌が、力強くおいらの舌を巻き込んでいく。
それと呼応するように、ショウ君の両腕にも力が入る。
「あ、んっ……。」
一瞬、苦しいくらいになって、おいらも背伸びして、ショウ君の首に腕を回す。
どうしたって止められない。
ショウ君を欲しいと思う気持ち。
きっと、ショウ君に会った、誰もが一度は思うはず。
この人を手に入れたい。
この人の腕に包まれたい……。
それを今、一人占めしてる優越感。
それと同時に起こる不安。
本当に一生、一人占めできる?
おいらにそれだけの魅力がある?
「ショ……、抱いて……。」
びっくりしたようなショウ君の顔。
その顔はすぐに嬉しそうな顔に変わる。
ハッとして我に返る。
おいら……何言ってんだろ……。
「ごめん、ご飯、すぐ作るね……。」
「いいよ。飯なんて、いつでも食べれる。
それよりも……大事なこと言ったでしょ?」
おいらは恥ずかしくって、ショウ君から顔を背ける。
「いや……あの、違うの……。」
「何が違うの?」
「だから……その……。」
「……サトシ。」
ショウ君はおいらを真正面に見据え、両手でおいらの顔を自分の方に向ける。
開けっ放しの冷凍庫が、プププと鳴る。
「……ショウ君……。」
「サトシが俺を欲してるなら、俺はいつでもウェルカム。」
そう言って、にっこり笑ってくれる。
「でも……、今日は、話をしてからの方がいいみたいだね。」
「どうして……。」
「サトシの顔がそう言ってる。」
ショウ君の親指がおいらの頬を撫でる。
優しい笑顔で、おいらを見つめる。
ショウ君にはなんでもわかっちゃう。
でも、なんて話せばいいんだろう?
おいらが黙っていると、ショウ君は頬を撫でてた両手でおいらの肩を叩く。
「まずは、一緒にご飯作ろうか?」
「……うん。」
ショウ君は、開いてる冷凍庫から、餃子を取り出し、コンロの方に持って行く。
「え?ショウ君が焼くの?」
「これくらいできるだろ?」
「……できる?麦茶しか作れない人が……?」
ショウ君はコンロと冷凍餃子を見比べて、口をへの字に尖らせると、
おいらに向かって餃子を差し出す。
おいらはクスッと笑って、それを受け取る。
「ショウ君はレタス出して、サラダ作って。」
フライパンを取り出してコンロに掛けると、ショウ君は笑顔で冷蔵庫を開ける。
十分熱したフライパンに餃子を並べると、ジュゥッと美味しそうな音がする。
隣でショウ君がレタスをちぎってボールに入れる。
その不器用な手つきが可愛くて、知らず知らずのうちにおいらも笑顔になっていく。
レタスがボールいっぱいになると、ショウ君が言う。
「サトシさ……最近、田村さんに会ってる?」
「田村さん?」
おいらはフライパンに蓋をして、ショウ君を見る。
大きくなっていた油の音が小さくなる。
「あんまり会えてない……。忙しいみたいで。」
「そっか……。」
「何かある?」
「いや、それならいいんだ……。」
……ショウ君、もしかして、類さんのこと気にしてる?
聞きたいけど、聞けないから、田村さんのこと聞いてみた?
おいらはショウ君を見上げる。
ショウ君の表情からは、そんな雰囲気は読み取れないけど……。
「田村さんが忙しい分……類さんがいろいろやってくれてる。」
「花沢類?」
「うん……。最近は、仕事で外に出る度、類さんが気を遣ってくれてる……。」
ショウ君はキュウリをまな板の上に置いて、包丁を握る。
「何も……されてない?誘われたりとか……してない?」
「全然。仕事だもん。」
おいらが笑うと、ショウ君は笑顔でキュウリを見つめる。
「あいつはフレンドリーを装って、すぐに触るから……、
そこも気を付けるんだよ。」
ショウ君がキュウリの端っこを真っすぐに切る。
確かに類さんはスキンシップ、多い方かも。
でも、それを言ったら、ジュン君やカズも多いし……。
「首から上、腰、太腿、手に触ったら、グーパンチね?」
「グーパンチ?」
「そう。あいつ、いい子いい子とかすぐしそう。」
そう言って、ショウ君は拳を作ってパンチを繰り出す。
「あ、肩もダメね。」
「触られてもいいとこの方が少なくない?」
ショウ君が、ん~と首を捻る。
「じゃ、背中と二の腕以外はダメだ。エスコートするなら、それだけで十分だろ。」
おいらは二の腕を見て、肩越しに背中を見る。
「……わかった。」
「背中と二の腕も、手の平以外はなし!」
ショウ君はズバッときゅうりをぶった切る。
「あいつ、背中と二の腕はいいって言ったら、唇とかで触りそうだからな。」
おいらはショウ君の妄想力がおかしくて笑う。
さすがに……仕事中だよ。ショウ君!