今度のキスは優しい。
柔らかく唇を食む。
「あ……。」
思わず吐息が漏れるような、そんな優しいキスに、ぎゅっと胸を掴まれる。
「……そんな声を出すな……。」
あいつは囁くようにそう言って、さらに僕の唇を甘噛みする。
「あぁ……。」
出すなと言われても、声が勝手に出る。
あいつが小さな声でつぶやく。
「……止まらなく……なるから……。」
あいつの手が寝間着の間から、するりと内に入って来る。
「やっ。」
ビクッと体が反応する。
あいつは僕から唇を離し、また困った顔で僕を見つめる。
「私は……お前の敵だ。」
そうだ。敵だ。
「殺したいほど憎い相手だ。」
そうだよ。殺したいほど……憎いよ。
「そんな私に触れられるのは……嫌か?」
ああ、嫌だよ。
嫌で嫌で仕方ない!
僕は、そう思いながら、あいつを抱きしめる。
抱きしめて顔を見上げる。
そのオレンジ色の髪も、グレーの瞳も、憎くて憎くて……。
「そんな私にキスされるのは……。」
僕は首を伸ばしてあいつにキスする。
あいつはぎゅっと僕を抱きしめ、ゆっくりと僕の背中を撫でる。
「憎くて憎くてたまらない。
でも、フランスに行くと聞いた時、ガンディア公と一緒にいるのを見た時、
僕の中が炎のように揺らめいた。
どす黒い何かが生まれた。
どうして?どんなに勉強してもわからない……。
僕がまだ子供だから?」
「……お前はもう、初めて会った時のような子供ではない。」
「じゃあ、なんで?この気持ちは何?」
「それを……確かめてみるか?」
「確かめる?どうやって?」
あいつはゆっくり僕のボタンに手を掛ける。
ボタンが一つ、二つ、外されて行く。
僕の鼓動がドキドキと高鳴る。
これは不安?
それとも期待?
「私は今から罪を犯す。お前が共犯だ。」
「共犯?」
「そうだ。共犯だ……。」
あいつの 唇 が 首 筋 に落ち、右側の肩から寝間着が落ちる。
ひやっとする空気に逆らうように、僕の肌が熱くなる。
あいつの手が肩を撫で、胸 を通って 脇 腹 をくすぐる。
「くすぐったいっ!」
僕は身を捩り、あいつがフッと笑う。
「ベッドへ行こうか……。」
僕ごと立ち上がると、辛うじて左肩にかかっていた寝間着が落ちる。
僕はズボン下だけになったのが恥ずかしくて、あいつの肩に顔を埋める。
丁寧にベッドに下され、あいつが覆いかぶさる。
あいつの 唇 が、僕の 肌 を 滑 る度、僕の背中を何かが突き抜ける。
僕の奥の方がぎゅっとして、くすぐったさと気持ちよさに 恍 惚 としてくる。
「あぁ……。」
「堕ちてくれるか?私と共に……。」
あいつが僕の 胸 の上から、上目遣いで僕を見る。
僕は……うなずいて、あいつの頭に両手を添える。
「……いいよ、堕ちてあげる。」
両手であいつの頭をさわさわと撫でる。
あいつは優しい顔で笑って、僕を見つめると、
あばらの浮き出た 胸 に、小さく キ ス をする。
僕達は……その晩、共犯になった。
堕ちて、堕ちて……、神に背いて……。
あいつは聖職者で、僕はそんなあいつを敵だと思ってて。
それぞれが罪深く……。
重い十字を背負う。
けれど、それは甘く、甘美な滴を垂らし、僕達を酔わす。
これが 寵 愛 と言うものだろうか?
こいつが浮名を流した美姫達と……。
考えただけで、心を支配し出すどす黒いもの。
あいつは僕の隣で小さな声で言う。
「お前は……私の唯一の共犯。」
僕はうなずいて、あいつを見る。
「うん。僕達は共犯……。」
憎くて憎くて殺したい相手。
なのに、その手は優しく僕を包む。
僕を見つめる瞳が変わる。
表情を持たなかった瞳に、光が揺らめく。
僕の瞳はどうだろう?
変わったのか?
あいつを見つめると、あいつがふわりと笑う。
「そんな目で見るな……、眠れなくなる。」
あいつは僕を引き寄せ、額に 唇 を当てる。
ああ、僕の瞳も変わったんだ。
憎くて憎くて……それでも愛おしい……僕の共犯者。