すぐに食事が下げられ、部屋に戻される。
寝間着に着替えながら、ベッドに腰かけ、ぼーっと考える。
ガンディア公の言ったあいつ。
父さんと母さんの敵のあいつ。
本当のあいつはどっち?
僕は立ち上がって、あいつの寝所に向かう。
今日は……来なくていいとは言われなかった。
でも、あいつの寝所の前で入るのを躊躇う。
今晩は、ガンディア公の所に行くかもしれない。
ガンディア公の気持ちを考えれば、そうしてあげて欲しいと思う反面、
行って欲しくないと思う自分もいる。
行って欲しくない?
僕はどうして行って欲しくない?
いや……もう部屋にはいないかもしれない。
ガンディア公の所に行って……。
そう思うと、やるせない気持ちでいっぱいになる。
あいつがいてもいなくても、これは僕の仕事だ。
この部屋に来て、ベッドで寝る、それが僕の仕事なんだ。
自分に言い聞かせ、扉を開ける。
椅子に座るあいつの背中が見える。
ホッとして、ベッドに入ろうと、片足を乗せ、動きを止める。
寂しそうな、苦しそうな背中。
「……行かなくていいの?」
ポツリと、思ってたことが口をついて出る。
「……どこへ?」
あいつが身動きせず答える。
「ガンディア公の……とこ。」
「……久しぶりだからと言って、一緒に寝る歳でもない。」
「でも……。」
「お前は黙っていろ。私とマサキの問題だ。」
「でも、きっと待ってるよ。」
「しゃべるなと言っている。聞こえなかったのか?」
僕はベッドから足を下す。
「……待ってる。あんたに抱きしめて欲しくて待ってる!」
「言うな!」
あいつは目を開け、悲痛な顔で僕を見る。
「ほら、そんなに心配してるくせに!」
「それ以上しゃべるな!」
あいつは僕の腕を掴んで引き寄せると、膝の上で抱きかかえるようにして 唇 を奪う。
「んっ!」
激しい キ ス は抵抗を許さない。
勢いよく 舌 を 絡 められ、なすすべなく 蹂 躙 されていく。
「あっんっ……。」
蹂 躙 されてるはずなのに、僕もあいつの 舌 を求めて 吸 い上げる。
激しいキスは、お互いの体ですら絡まり合う。
あいつの膝の上で、あいつの首に腕を回し、あいつの中にのめり込んでいく。
行かせたくない……。
そう思う気持ちの表れなのか。
あいつは、僕を力強く抱きしめ、背中を 撫 でるように 擦 り、
布 越しに 触 れあう 肌 と 肌 が熱い。
「んっ。」
口の端から 唾 液 が 垂 れ、顎 を伝う。
そんなことを気にする様子もなく、あいつの 唇 は僕の 唇 を 喰 らい尽くす。
あまりの激しさに、息もできない。
「んぁっ……。」
口を開け、息を吸いこもうとしても、あいつの舌が奥へ奥へと攻めたててくる。
「あっ、んっ……。」
どうにも苦しくなって、あいつの胸を拳で叩く。
ドン、ドンドン。
数回叩いても止めてくれない。
僕は、あいつの胸に手をついて、思いっきり突き放した。
「んあっ!」
やっと離れた 唇 で、思い切り息を吸いこむ。
「はぁ~~~っ。」
「お前はまだ息ができないのか?」
「こ、こんなの、できるわけない!」
僕が数回深呼吸すると、あいつの表情が少し和らぐ。
膝の上に横座りする僕を、座りがいいように引き上げて、腰に腕を回す。
なんだか小さな子供になったような気がする……。
恥ずかしくなって、チラッとあいつを見ると、やっぱり表情は曇ったまま……。
「心配……なんでしょ?」
僕はあいつの肩に腕を掛ける。
「ああ、心配だ……。」
「だったら……。」
「それでも……マサキの気持ちに応えてやることはできない。」
ガンディア公の気持ちに気付いてる……。
気付いているから、行けない?
「それは……兄弟だから?」
あいつは言葉を選ぶようにゆっくり話す。
「私はマサキをそういう目で見ることができない。
私にとってマサキは、いついかなる時も可愛い弟だ。」
兄弟以上の気持ちを持つガンディア公。
兄弟以上になれないこいつ……。
気持ちは誰にも変えることはできない。
自分に嘘もつけないし、裏切ることも……。
ガンディア公が言ってたのは自分のことだ。
僕は?
僕は自分の気持ちに嘘をついていない?
裏切っていない?
「マサキの所に行けば、あいつに期待を持たせる……。」
僕は何も言えない。
ガンディア公が期待するのがわかっているから。
……そう、今の僕みたいに。
ダメだってわかってるのに、
敵だってわかっているのに……期待している僕の心。
キ ス するのは僕だけ?
僕は浮名を流す女達とは違うよね?
特別……、そう、特別だと言って欲しくて。
優しく笑いかけながら、そう言って欲しくて……。
父さんと母さんの敵のこいつに……。
敵なのに……。
僕はあいつの顔をじっと見つめる。
「ショウ……?」
「僕は……、僕はあんたの何?」
あいつは……少し困った顔をして……、
もう一度 唇 を合わせた。