アローコクワ 亜種リエン ベトナム コントゥム省 休眠どうして短い!! | 昆虫漂流記

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アローコクワ 亜種リエン

ベトナム コントゥム省
Dorcus magdaleinae lieni
(アローコクワ 亜種リエン)
(マグダレンコクワ 亜種リエン)
Tỉnh Kon Tum Vietnam 
(ベトナム コントゥム省)
(クワガタ業界ではコンツム省と発音される)
WF1
♂70㎜ 2024年3月上旬羽化
♀ 2024年1月下旬羽化


翌年の楽しみの為にアローコクワを入手しました。

アローコクワの詳細については此処では詳しくは記載しません。
ここでアローコクワの分類やシノニムに触れると其れだけで長文になりそうだからね~!
でも書いちゃおうかな~?

アローコクワの分類で頭を悩ませて、名前があやふやになってる人が多いものね。

これまでの学名の変遷についての経過状況って風な感じで~!

さて~昔々、アローコクワは~。


何より種の名前については基本に戻り、命名された標本から考える必要があるね。
学名はDorcus arrowi(Boileau, 1911)
アローコクワは大英博物館(British Museum)に保存されてる個体がタイプ標本となっているようだ。

タイプ写真

 

ミャンマーのマンダレー地方のタベイッキン地区にある町モゴック(Mogok )近郊のルビー鉱山(Ruby Mines)で採集された個体を基準亜種の産地(基産地)とされている。
フランスの昆虫学者アンリ・ボワロー(Henri Boileau, 1866.2.12-1924.8.15)の名前も記載がある。

アローコクワは2000年当時は、世界のクワガタ大図鑑(旧巻)によると生息地はインド東部、ミャンマー北部、タイ北部となっている。タイに生息するアローコクワは日本国内ではタイアカアシクワガタと和名で呼ばれたり、標本をもたらした小山氏にちなみコヤマクワガタとも呼ばれて学名をDorcus arrowiとされて亜種分類はありませんでした。

年月は進み、2010年藤田氏が発行した世界のクワガタ大図鑑(新刊)では旧大図鑑でとり上げた中のアローコクワの基産地がルビーマインズである個体は大腮の形状からカチンコクワかフキヌキコクワである可能性があることやベトナムに生息する マグダレンコクワガタの亜種と考えて「Dorcus magdaleinae」の学名を使った。

さらにタイ北部の個体群を「Dorcus magdaleinae nobuhikoi Fujita, 2010,」として、中国福建省から記載されている旧巻世界のクワガタ大図鑑のプレートナンバー150、個体番号138番の学名「Macrodorcas haitschunus Didier et Séguy,1952」ハイチュヌスコクワガタ(又はハイチュコクワガタ)とフキヌキコクワガタ「D. fukinukii Shenk」もタイ北部のマグダレンコクワ亜種「Dorcus magdaleinae nobuhikoi Fujita, 2010」に含めたわけだ。


Dorcus fukinukii SCHENK, 2000  Myanmar  Chin Hills  Kennedy Park 

 Holotypus (左)、Paratypus (右2個体)

(フキヌキコクワガタのホロタイプとパラタイプ)

 

残りのミャンマー北部に産する旧大図鑑で「Dorcus arrowi」の基準亜種と記載に使われた個体群は「Dorcus magdaleinae chudoraziensis」と変更命名された。
結果、旧図鑑でDorcus arrowiとされていた個体群は下記のマグダレンコクワの2亜種に分類された。

  • インド東部からミヤンマ―北部は「Dorcus magdaleinae chudoraziensis Fujita, 2010,」
  • タイ北部に生息していた個体群は「Dorcus magdaleinae nobuhikoi Fujita, 2010,」

 

さて時間はまたさかのぼる事になるが、

2000年頃には、ベトナムにおいて既にマグダレンコクワガタ「Dorcus magdaleinae  (Lacroix,1972)」と呼ばれた和名「ベトナムアカアシクワガタ」と云うのが存在していた。
つまりこの2000年頃はアローコクワとマグダレンコクワ(ベトナムアカアシクワガタ)は生息地が別れた別種として扱われていた。
此のベトナムアカアシクワガタはベトナムの特産種とされて中山帯からやや高い山地帯に住む珍品とされた。
産地で言えばサパ州やラオカイなどで採集されている個体群で、学名「Dorcus magdaleinae magdeleinae」でマグダレンコクワガタの原名亜種にあたる。

ただ、旧巻クワガタムシ大図鑑にはベトナムの「Dorcus magdaleinae」については記載がないが木曜社の「世界のクワガタギネス」においては種の記載がされている。
つまり藤田氏の新巻大図鑑発行の際に旧巻世界のクワガタ大図鑑に記載が無かったマグダレンコクワガタ「Dorcus magdaleinae」を記載し、アローコクワをマグダレンコクワの亜種に再分類されたわけだ。

その後、ベトナム中部で調査を続けられていた前田健氏により、2010年5月にベトナム中部コンツム省からもたらされた体長40mmほどの♂のマグダレインコクワガタが採集された。これは小さくて同定が難しかったが6月に大型の個体の雄と雌が採集されて2012年に「Dorcus magdaleinae lieni Maeda,2012」と命名された。

ちなみに亜種リエンのホロタイプはベトナム国立自然博物館のコレクションに寄贈されて、パラタイプは奥田尚文氏と前田健氏のコレクションに保存されています。



結果アローコクワは正式にはマグダレンコクワとして1基亜種+3亜種に別れているが、マグダレンコクワの名称が馴染みが薄いので、旧名の慣れ親しんだアローコクワが流通名として使われている。

 

つまり新しい分類方法では下記のように学名は「Dorcus arrowi」→「Dorcus magdaleinae .ssp」に代わった事になるが、和名では「アローコクワ○○亜種」として呼ばれる。

  • 「Dorcus magdaleinae magdeleinae」従来からベトナムに産するベトナム北部個体群
  • 「Dorcus magdaleinae lieni Maeda,2012」ベトナム中部に産する個体群
  • 「Dorcus magdaleinae chudoraziensis Fujita, 2010,」インド東部からミヤンマ―北部
  • 「Dorcus magdaleinae nobuhikoi Fujita, 2010,」タイ北部に生息していた個体群

では何故、学名ではアローコクワの名前を使わずにマグダレンコクワの名前を使用したか?が問題になる。

アローコクワの種の記載は1911年、マグダレンコクワの記載は1972年なので国際命名規約によると先に記載した学名の名前を使用するのが決まりなのでアローコクワの名前を使うのが通例だ、しかし2010年に新巻の大図鑑を発行する際に藤田氏が比べたのはカチンコクワとフキヌキコクワである。これらの記載はDorcus katctinensis  Nagai, 2000とDorcus fukinukii  (Schenk,2000)となっているので、どちらの種類も2000年に記載されている。つまりマグダレンコクワの1972年の方が古い事からこちらを使用した事になる。

ただし今後に亜種の再分類が行われるとなれば、新巻の大図鑑の命名方法を使うなら、インド東部からミヤンマ―北部に生息する亜種 chudoraziensisにはカチンコクワとフキヌキコクワと似ているとしてマグダレンの亜種に分類された事から、アローコクワにフキヌキコクワやカチンコクワと比べる理屈から、元に戻されて命名記載が一番古いアローコクワの名前を使うのが適正となるまもしれない。

 

ネット上でDorcus arrowi magdaleinaenと使われているがカチンコクワとフキヌキコクワとを比べて命名したのであるのでDorcus arrowiと云う種は現存せず、Dorcus magdaleinaen.sspが正しい学名の使い方になる。

この使い方ではアローコクワのマグダレン亜種を意味するのだが、種名+種名(.sp+.sp)で意味がない。

 

ただし古い考え方によっては、フキヌキコクワとカチンコクワと比較したミャンマー北部やインド東部の個体群には理屈的には種の記載が古いアローコクワの種名を使いDorcus arrow chudoraziensisを使用する事も一理あるとも思われる。

とはいえ、学名は決められた規則にのっとり付けられた名前だが、和名は名前をつけるにおいて規則はない。

和名は一般的に通用し流通する名前を使われるのが理想だ。

という訳で「アローコクワ亜種リエン」、「アローコクワ原名亜種」と平仮名やカタカナの和名で呼ぶ事には問題ないが学名には「Dorcus magdaleinae lieni」と「magdaleinae」を使う必要が出てきます。

 

ただし此処で理解を間違えてはいけない。

アローコクワと過去に呼ばれた(亜種分類がされていなかった当時の基産地となった原名亜種となるルビー鉱山近隣の個体群)は通常は原名亜種と呼ばれるはずだが、マグダレンコクワに変更されているので原名亜種はマグダレンコクワの基産地であるベトナム北部の個体群が、借名アローコクワの原名亜種となる。

尚ベトナム北部の産地サパ州やラオカイは中国雲南省東部とも接しているので此方もマグダレンコクワの原名亜種と考えられるが、雲南省西部はミヤンマ―北部と接している事から、こちらは、ミヤンマー北部(ルビー鉱山近郊に生息していた個体群)のアローコクワの基産地個体群で、後に亜種変更されたmagdaleinae chudoraziensisとなる理屈になる。

(簡単に記載すると雲南省西部の個体群は旧名アローコクワの記載産地であってマグダレンコクワの亜種でアローコクワの原名亜種ではない。)

 

此処で、私の考え的には問題が生じている。

ベトナム北部と雲南省東部の個体群がマグダレンコクワガタの原名亜種とされているが、雲南省の北に位置する中国福建省のハチュヌスコクワガタがタイ北部の亜種magdaleinae nobuhikoに含まれたことだ。タイ北部と福建省の間には雲南省、広東省、広西壮族自治区、ラオス、ベトナム北部さえが挟まれている、これでは亜種nobuhikoiはタイ北部個体群と中国福建省ハチュヌスコクワガタ由来個体群の真ん中に原名亜種で分離されたという理屈。それとも飛び地的な分布という理解になってしまう。

雲南省西部個体群(magdaleinae chudoraziensis)と雲南省東部個体群(magdaleinae 原名亜種)の亜種の違いは地理的要因から理解できるが、亜種magdaleinae nobuhikoiと亜種magdaleinae 原名亜種との地理的分布に理解が出来なくなる。

此のあたりは、再度分類がなされるかもしれないと記載だけしておこう。

 

さて話の途中で出て来たクワガタについても記載が必要だろう。

中国福建省から得られた、亜種nobuhikoi に含められた「Macrodorcas haitschunus Didier et Séguy,1952(ハイチュヌスコクワガタ)」は学名「Macrodorcas(コクワガタ亜属)」の名前が旧巻世界のクワガタ大図鑑にも使用されていたが、Dorcus haitschunusでも間違いではない。 亜属を表示する際はMacrodorcas(マクロドルカス)だが属名に使われるのはDorcus(ドルクス)と一文字違う処に注意が必要だ。

ちなみにアローコクワは 「Hemisodorcus(アローコクワガタ亜属」)の名前が使われるが、今回はコクワガタ亜属「Macrodorcas」からアローコクワガタ亜属に切り替わるなど亜属間を越えた大胆な再分類がされた事が伺われます。

 

 では文中に記載したカチンコクワの説明も必要になってきますね。

カチンコクワは2000年代にはカチンアカアシクワガタ「Dorcus katctinensis」と呼ばれたミヤンマ―カチン州に分布しているクワガタで標高2000メートル以下の山岳地帯で灯火採集で発見されたクワガタだ。この地域はクワガタの発生時期にあたる雨期が2か月ほどあり、調査には山岳地域の雨季と云えば崖崩れ、川の増水などの道路事情などで困難を極めているのが2000年まで記載がされなかった所以なのかもしれない。

 

では文中に記載したフキヌキコクワガタの説明は~。

フキヌキコクワガタは2000年代にはカチンコクワガタと同種かも知れないと云う疑惑がもともとあったが、和名でチンアカアシクワガタとよばれていました。ミャンマー北部のカチン州、ルビーミネス、チン山脈から採集されていました。

1999年5月27日にチン山脈の標高1000メートル以上のKennedy Peak(ケネディーピーク)で吹抜清民氏が夜間採集で雌雄を採集され、KLAVS-DIRK SCHENK氏によって2000年にHemisodorcus(アローコクワガタ亜属)」として記載されました。

つまりルビーミネス(ルビー鉱山)での採集が行われていた事や、Hemisodorcus(アローコクワガタ亜属)として記載された事から、アローコクワと同種と疑いがあった上でフキヌキコクワと云う新種としての名前が独り歩きしていたのかもしれません。


難しい分類の話が長引いてしまったが、最後に、

マグダレンコクワは未だ分類最中だとも考えられます。中国はチベット付近から福建省までインドシナ半島北部にかけて広範囲に広がっている。さらにインドの標高が高い地域やヒマラヤ。チベットに生息していると考えても不思議ではない。今後、分類が変わる事や亜種が増えても不思議ではないと考えます。

やはり話が長くなったようだが、本題に入りたい。
本題の方が短くなりそうだ。

よく知られているように、この種は予想以上に寝る!寝る!寝る!と「休眠」する事が云われている。
SHOPで休眠明けの個体を購入すれば、問題のない話なのですが~!
早い話、成虫に羽化してから、成虫の状態で餌を食べ出す(後食)までの、何も食べない期間(休眠)が半年から1年は要すると云われています。
寿命も1年から2年と云われて、コクワガタと名がついていますが、コクワガタ亜族Macrodorcusとは違い、生態はアカアシクワガタ亜族Nipponodorcusに近く、アローコクワガタ亜属 Hemisodorcusと云われています。



 

長い期間を寝る「休眠する」事から繁殖を考えるには新成虫は1年前から、準備しておかなければいけない。
成熟しない期間に雌雄を一緒にすると、当然に早死にしてしまう。
長生きするクワガタは成熟させるのに時間をかける方が安心できるのが基本です。
購入の際にも「3月上旬に羽化しているので後食も繁殖も来年になるよ」と念を押されていたので、雑菌で弱らないようにマットの代わりにティシュを使い、餌のゼリーは腐る心配も無いのでとりあえず入れておいた。


5月の初めの頃だった。アローコクワのケースを見てみると寝ているはずのアローコクワが餌のゼリーを全て掻きだしていた。
悪さをしたのか?身を隠すために潜り込もうとしたのかな?と考えて、餌を交換しておいた。
翌日にも餌を掻きだしていた。さらに翌日にも。
どうも様子がおかしいので、夜にケースを目につく処に取り出して、通りすがりにも観察できるように移動した。
夜になって活動が始まると餌のゼリーに頭を入れて、餌を食ってるじゃないか???

再度確認しても、「下唇」又は「唇舌」を長~くのばして味わってる姿に間違いない。

 

ネットで調べて見ても2か月ほどで後食が始まるなんて書かれたブログが見当たらない。

「秋に羽化して半年経過して、休眠があけて後食を開始したので安心して購入して下さい」

そんな休眠を終えた状態の販売目的の情報ばかりです。

購入後すぐに繁殖ならば、安心して購入後間もなくペアリングも出来そうですが、此方は幼虫時代は省略したが、せめて新成虫の綺麗な色から楽しみたいからね~。


 

そんな事で、我が家の雄のアローコクワは、2か月で休眠明けをしてしまった事で毎日の餌替えが必要になりました。
其のうちに雌も後食が始まりました。我が家はどうなっているんだろう?

気温も5月は20度以下で涼しく過ごせていたのにね。
秋以降までは成熟の為に餌の只食いをさせて飼育しなければいけないのだろうね。
昨晩はケースの中で雄が翅を広げて飛び立とうと暴れていました。

とりあえず、普通はアローコクワは休眠時間が長いのだが、春に羽化する個体は休眠が少ないのか?温度が原因なのか?我が家の愛情が原因なのか?は不明だが、たった2か月で後食する個体も見られるという事だ。
とりあえず、アローコクワは休眠が非常に短い個体も見られるという事を記載しておきたい。
でも、繁殖に使えるようには成熟はしていないはずだ。

アローコクワを購入する際には、餌を食べているから安心と思ってはいけない。このように休眠が短く未成熟な個体もいると云う事で、購入時の、羽化日確認の注意喚起を促したいと思います。