女王の問いの後、しばらくの沈黙があった。
「私は、」
円卓を挟んで女王の向かいに座っている者が口を開く。
「やはり、奴らが失って最も困るものは、自分の命だと考えます。」
「ふむ。あれだけ他の生物を踏みにじり、ましてやヒトという同種族同士で争い続ける奴らでも、やはり自分の命が惜しいか」
「ええ、きっと」
「他の者は、これに何か意見はあるか?」
「お言葉ですが陛下」
「ん?なんだ、軍隊長」
「仮に我々がヒトの命を奪えたとしましょう。それで奴らに、我々と同じ苦しみを与える事が出来るのでしょうか?」
「ほぉ、、。分からんな、奴らの命を奪うだけではまだ足りないと言うのか?確かに我々の受けた苦しみは途轍もなく大きいが、、」
「いえ、むしろ命を奪ってしまっては意味が無いのです、女王陛下。奴らには我々と同じ苦しみを生きて感じさせなければならない。我々と同じ苦しみ、怒り、憎しみ、そして何より、自分たちが他の生物に計り知れない苦痛を与えてきた事に無自覚だった事を自覚させるべきだ。死んでしまってはもはや自らの過ちを省みる事すら出来ない、そこにはただ我々がヒトの命を奪ったという事実が残るだけでは?」
「なるほど、確かにそれも一つの意見だな。だがお前の言うように、ヒトに自らの過ちを反省させる事は、それはそれは難しいぞ。相手は思いも言葉も通じない、我々と種族の異なるヒトだ。ましてや、例え何らかの方法で言葉が通じたとしても我々はどのように奴らを説得する?『お前たちは良くない事をしているから反省しろ』とでも言うのか?あまりに無茶だ。このような言い方をすると私の女王としての沽券に関わるが、ヒトを反省させる事よりも、ヒトの命を奪う事の方が、恐らくずっと容易なのだろうな」
その場にいる者たち全員が、顔をしかめて黙っている。皆それぞれの考えがあるのだろう。自分たちの目的が復讐である事に代わりはないが、それは殺戮ではなく、ヒトにヒトの罪を自覚させるという復讐である。そう考える者もいれば、自分の家族や友人をヒトに殺された者は、やはりヒトの命を奪ってこそ復讐が果たせると考えているのかもしれない。それぞれの思いが暗い暗い部屋の中で交錯している。巣の外はもう辺り一面に夜の霜が降りていて、夜空の月は冷たく沈黙していた。