あなたがいる場所 | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/6/16

彼の『深夜特急』を読んで、どれだけ沢山の若者がアジア旅行へと
駆り立てられたことでしょう。

『あなたがいる場所』 
    沢木耕太郎著 新潮社
   
ノンフィクション作家として有名な沢木耕太郎氏が、短編小説集を
出しました。
彼はこれまでジョー・フレージャー(ボクサー)や円谷幸吉(マラ
ソンランナー)、榎本喜八(プロ野球選手)から山口二矢(浅沼稲
次郎暗殺者)、檀一雄(作家)、ロバート・キャパ(戦場カメラマ
ン)まで、有名無名の人物の生き様の真相を、明らかにする作品を
数多く残してきました。

徹底的に取材対象と向き合う沢木氏の姿勢は、時に相手の人生に
直接関わるまでにのめりこみ(『一瞬の夏』でのボクサー、カシ
アス内藤やコーチのエディ・タウンゼント)、それは「私ノンフィ
クション」という新ジャンルを切り開いたほどなのです。

実在の人物像の本質を造形する作業を徹底的に繰り返してきたから
でしょうか。
本書の登場人物はすべて架空の存在であるはずなのに、まるで沢木
氏が取材をしてきた実在の人物のようにリアリティある存在として
描かれています。

ひょっとすると、登場人物が織りなすエピソードのひとつひとつは
沢木氏が創作したのではなく、彼がこれまで取材してきた無数の人
物から聞き出した事実の断片を組み合わせたものなのかもしれませ
ん。

ピカソが幼少時に繰り返したデッサンはどれもが驚くほどに正確で
す。
その技術の裏づけがあっての破調だから、ピカソの絵には説得力が
あるのではないでしょうか。

ある事象をそのまま正確に描写するのは意外に難しいものです。
あるがままの事実を正確に捉えて再現するデッサンの訓練が出来て
いないままに、事象を敷衍して高次に応用しようとしても、消化不
良を起こすばかりです。

普段何気なく使っている業界用語について、業界外の人から尋ねら
れて説明しようとしたら、うまくできずに、しどろもどろになって
しまった経験はありませんか?

自分の拠って立つ業界に関する知識は、多少あやふやなままでも、
日常業務ならばなんとなく無難にこなせてしまうものです。
それが致命的な弱点になるとの差し迫った危機感もありませんから、
そのまま放置してずるずると年月を重ねてしまったような人をたま
に見かけます。

こうした人は、普段は案外自信に溢れているように見えますが、公
式通りに行かない応用問題にぶつかったときに、急にメッキがはが
れて知識不足の馬脚を現し、思わぬ醜態を晒してしまうことになり
ます。
創造的な仕事を任されるとなかなか成果が上げられず、いつまでも
伸び悩んでしまうような気がします。

毎日の忙しい業務に追われて、業界の基本的な知識を体系的に習得
せずに過ごしてきたとの自覚のある方は、今からでも業界の入門書
を読んでみることをお勧めします。
ただ、くれぐれも同僚や後輩には読んでいるところを見つからない
ようにしてください。
威信が丸つぶれになりかねませんので・・・。