「野生動物」飼育読本 | 店舗探し.comの過去コラム

店舗探し.comの過去コラム

会員様向けメルマガに掲載された過去のコラムを掲載しています。

2013/3/27

うっかり騙されてしまうところでした。

『「野生動物」飼育読本』
   横山雅司著 彩図社

本書の「はじめに」には、こう記載されています。

“・・・なぜ、これほどまでに人間は動物を飼いたがるのか。
 おそらく、それは人間が動物から‘癒し’をもらっているから
 ではないでしょうか。

 ・・・ペットは慎重に選ぶ必要があります。

 動物の中にはどんなに憧れたとしても、飼育に不向きなものが
 いるのも事実です。
 たとえば、ゾウやサイのような動物は大きすぎて一般家庭で飼
 うのは難しいことでしょう。深海魚のようなデリケートな生き
 物なら、連れてきた途端に死なせてしまうかもしれません。
 しかし、本書を読めばもう大丈夫。

 本書は、チンパンジーやパンダ、ペンギンなど20種類の動植物
 を取り上げ、‘その動物に適した環境’で、‘ストレスを与え
 ることなく飼育する’方法を紹介しています。
 わずかな労力とちょっとの出費で、あの憧れの動物も家族の一員
 です。”

えっ、パンダ?

さすがにこれはペットには無理だろうといぶかりながらページを
めくると、最初に登場するのは「チンパンジー」です。
人間に最も近いと言われるチンパンジーならば、家族が一人増えた
ように一緒に暮らせるのかと思いきや・・・。

チンパンジーはワシントン条約にリストアップされているので、
ペットとして輸入することはできない、といきなり冷水をぶっかけ
られます。
自宅を「霊長類研究所」に改造するのが合法的に飼育する一番簡単
な方法だというのですが、飼育施設には適切な運動場を設け、周囲
を高さ10メートルの塀で囲めときます。
予算は7億円もあれば十分だなどといけしゃあしゃあと言われると、
さすがに本書が、単なるハウツー本ではないことに気付くのです。

しかも、チンパンジーは性質が非常に凶暴で、サルの肉が大好物と
いう恐ろしい猛獣なのだそうです。権力争いで同じ群れのライバル
の血を引く子供まで食べることまであるのです。

飼い主だからと安心はできません。
成長すると片手で人間の首をひねり折るほどの怪力を持ち、事実、
アメリカでは、飼い主の顔面の大半を食いちぎるといった事件を
起こしたこともあります。
私たちが普段テレビで目にする芸達者なチンパンジーは、ほんの
小さな子供で、人間でいえば小学生程度だそうです。
人間が安心して扱えるのはこの年齢が限界なのだそうです。

「ホオジロザメ」を飼育するには幅5km、奥行き10km、高さ50mの
巨大水槽が必要で、施設建設費に1000億円かかります。

「コアラ」を飼うには防音対策を施した施設で気温や湿度をコン
ピューター制御するくらいの配慮が必要です。
エサのユーカリは鮮度が重要なので、毎日航空便で運べば年間
2000万円ほどかかります。

地球上に生息しているのは、犬や猫のように、ペットに馴染む動
物ばかりではありません。
野生動物をペット化しようなどという試み自体が、そもそも人間
の傲慢さの現れなのでしょう。

結局、野生動物も、人間が決して制御できない【自然】の一部な
のだとつくずく思い知らされます。
もっとも、同じ【自然】の一部である人間の方が、チンパンジー
よりよほど殺し合いの好きな、残忍で扱いづらくて厄介な野生動物
かもしれません。