『クリスマスのその夜に』 | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/12/16

折からの不況でボーナスも少なかったので、外食は諦めたけれど、
妻が精一杯に腕をふるってくれたテーブルにはご馳走が並んでい
る頃だ。
子供達が望んでいたプレゼントも買ってやることができた。
あとは、奮発して大きめのクリスマスケーキを買って家に帰るだ
け・・・。

ごく普通のクリスマスが待っている人には、少し物足りない映画
かもしれません。
 
『クリスマスのその夜に』(ベント・ハーメル監督)
 
映画に登場するのは、クリスマスイブにも関わらず、家族とのさ
さやかでも暖かい団欒の時を過ごすことがかなわない人ばかりで
す。

妻に追い出されて、子供達へのプレゼントを渡すことすら出来な
いでいるパウル。

故国へ帰ることが出来ないコソボ出身のカップルの出産を手伝う、
パウルの友人で医師のクヌート。

イスラム教徒だからクリスマスを祝うことはない、という少女ビ
ントゥに心を寄せる、自分はクリスチャンである少年トモス。

かつてサッカー選手としてヒーローだったものの、いまは落ちぶ
れて、故郷へ帰る足代にも事欠くヨルダン。

クリスマス後に結婚できると信じて、不倫相手の男をいそいそと
迎えるカリン・・・。
 
ベント・ハーメル監督は、平凡な幸せからちょっとだけはみ出し
てしまった、地味で孤独な人物を造形するのが実にたくみです。
『キッチン・ストーリー』という、孤独な中年男同士の奇妙な友
情を描いた秀作もあります。
 
『クリスマスのその夜に』を上映している有楽町の映画館は、と
ても混雑していました。
クリスマスイブをわびしく過ごす登場人物との距離を測り、自分
達の幸せの大きさを確認しにきたような、熱々のカップルもちら
ほら見かけられました。
しかし、同病相哀れみ、身につまされていた観客の方が圧倒的に
多かったように見えたのは、つまらぬ僻み根性からでしょうか。
 
統計を調べたとかそういうわけではありませんが、
【平凡だけれどつつましい幸せに溢れた生活】
を送っていると実感している人は、案外少ないような気がします。
 
私事で恐縮ですが、ここ何年か、クリスマスは行きつけの寿司屋
で過ごすのが恒例になっています。

「クリスマスに寿司を食べているのはここにいる客ぐらいのもん
 だ。」

毎年誰かが口にすることになりますが、いつもは閑古鳥の鳴くこ
ともある寿司屋が、その日ばかりは常連客で溢れかえり、フリの
お客を断るほどなのです。
 
自分の幸せを再確認するためでも、寂しいのは自分だけではない
と安心するためでも・・・。

『クリスマスのその夜に』
必見です!