『祝の島』 | 店舗探し.comの過去コラム

店舗探し.comの過去コラム

会員様向けメルマガに掲載された過去のコラムを掲載しています。

2010/08/09

鯛やカサゴを淡々と釣り上げていく老漁師。
解禁日にウニやヒジキをせっせと採集する、島内ただひとりの
女漁師。

祖父がひとりで作り上げたという棚田で、生まれてから70回目
の田植えをするのは80歳に手が届こうとする島民です。
自分や孫子の食べる米は、この棚田からの収穫で賄えるのだ
そうです。
 
『祝の島』
   纐纈あや監督
 
映画は、瀬戸内海に浮かぶ小さな島、祝島(山口県)に住む
500人の島民達の日常を、丁寧に追いかけていきます。

対岸には原子力発電所建設計画がありますが、9割に上る
島民たちは、10億円もの漁業補償を断り、一貫して断固反対
を訴え続けています。
 
しかし、毎週月曜に行われる原発反対の抗議デモは、まるで
村内を触れ回る火の用心の行列です。

「ええい、ええい、おーう!」

シュプレヒコールも、盆踊りの合いの手のようにのどかに響き
ます。

建設作業に抗議するために、柵の前で座り込んだ島民達は、
おにぎりにカップうどんで、運動会でも見物に来たかのよう
にも見えます。
 
しかも本編では、主題であるはずの反対運動そのものには、
ほんの僅かしか時間を割いてはいません。
大半は、海と山のある、魅力に溢れた田舎暮らしを徹底的に
描くことに費やされています。

50歳ではまだ「坊」と呼ばれるほど高齢化の進んだ島民達は、
肩を寄せ合い、助け合って、穏やかな日常を送っています。
 
部外者が事情もわからずに、軽々に彼の地の原発の是非を
言うことはできません。
しかし、島民達が営んでいる生活はどこまでも愛しく、心に
温かく沁みてきます。

・・・そう、真理は細部に宿るのです。
 
都会生まれの人でも、この映画を観れば、きっと郷愁を感じる
ことでしょう。
どこの国でも、ほんの少し前まではあったはずの、当たり前の
ように自然と共に生きる、原風景ともいうべき生活があるから
なのです。