2014/4/28
最初から最後まで刺激的で、かつ示唆に富んだ本に久しぶり
に出会いました。
『死なないやつら ~極限から考える「生命とは何か」』
長沼毅著 講談社
「科学は如何にしてといふこと即ちHowといふことを研究する
者で、何故といふこと即ちWhyといふことの質問には応じ兼
ねるといふのである」
夏目漱石が書いたこの一文によって、日本の科学者の中には
〈なぜ〉を問うてはいけない風潮が支配していると言います。
「なぜ自分はここにいるのか?」
との問いへのアプローチは、これまでもっぱら文学者や哲学者
に委ねられてきました。
しかし、「なぜ自分はここにいるのか?」という問いは「生命
とは何か」という問いと表裏一体のものであると考える著者は、
そのタブーを敢えて犯し、「生命とは何か」という問いに極限
環境を専門とする生物学者として迫っていきます。
著者が「極限生物」を研究するのには理由があります。
“科学の研究では、取り扱う対象の本質的な性質を見いだすた
めに、さまざまな条件を極限、つまり「エッジ」に設定して、
そのとき得られた値をもとに洞察するという手法があります。
たとえば水の密度が最大になる温度をみると、意外にも0℃
ではなく4℃であることがわかります。
そこから水という物質が隠し持っている異様な性質があぶり
だされてくるわけです。
・・・地球生命はさまざまな環境に生息しています。
それぞれの生存に適した温度、気圧や水圧、湿度、塩分濃度
などの条件があります。
しかし、なかにはその条件における「極限」ともいえる環境
で生きているものがいます。
・・・環境を限りなく極限に近づけていったとき、地球生命
という現象は、ぎりぎりどこまで成立しうるのか。
極限生物はその境界線、つまり「エッジ」を示してくれるのです。”
テレビなどで「不死身の生物」と紹介された「クマムシ」は、151℃の
高温でも、0.0075ケルビンという絶対零度に近いところでも死にま
せん。
X線での致死線量は57万レントゲン、すなわち5700シーベルトです。
さらに、「ネムリユスリカ」はクマムシよりも過酷な条件にも
耐えられるのです。
しかし、クマムシもネムリユスリカも過酷な状態を仮死状態
になって耐えるのが精いっぱいで、活動的に生きているわけ
ではありません。
真の極限生物を極限状態においても正常な活動が営めるものと
定義するならば、「極限環境微生物」と呼ばれる微生物をおい
てほかにはありません。
精神的に極限状態まで追い詰められた人間、業績低迷で倒産
寸前の企業、自然災害や経済危機、環境危機に追い詰められ
つつある国家・・・。
極限状態において生き生きと活動する極限環境微生物の存在は、
限界を意識して苦しんでいる人への励みとなるかもしれません。