2011/1/13
『ロンドンはやめられない』(高月園子著 新潮文庫)
という、名エッセイがあります。
以下、「幸せの秘訣」との小題のついた章から引用します。
「心理学の分野では有名な統計ですが、オリンピックでは
銀メダリストより銅メダリストのほうが達成感や幸福感が
圧倒的に大きいんだそうです。
これは、銅メダリストがメダルを取れなかった選手たちや、
そもそもオリンピックに出場できなかった人たちを含む
大きな全体図の中で自分の位置をとらえる傾向がある
のに対し、銀メダリストは生涯、自分を金メダリストと
のみ比較して
『悔しい。金が良かった』
という状態になってしまうからだとか。」
だから
「幸せの秘訣は、心理状態を常に銅メダリスト状態に保つ
ことにありそう。つまり
①全体図の中に自分を置いて考える。
②正しい距離感や遠近感で自分を見つめる。
③不幸の源の金銀を無視する。」
と、論を進めていきます・・・。
目端の利く経営者で、たくさんの利益が出ているわけでは
ないけれど、資金繰りに頭を悩ますことがない程度の業績
は上げている経営状態の時に、他の、より収益率の高そう
な新規事業の方がつい魅力的に思えて、本業から商売換え
しようとする人をよく見かけます。
彼らはさしずめ銀メダリストの心理状態なのかもしれませ
ん。
「隣の芝生は青く見える」のたとえのように、未知の業界
での新規事業というのは、手を出してみたはいいけれど、
苦労ばかりで元の事業よりも利益が出ない結果に終わって
しまうことの方が多い気がします。
あげくは、せっかく獲得した銀メダルを手放すだけでなく、
事業という競技そのものを、断念せざるを得ない事態に
見舞われてしまうこともあります。
一方、メダル争いはもとより、入賞すら夢のまた夢といっ
た業績で四苦八苦している経営者にしてみれば、銀メダリ
ストの悩みなどに共感するどころではないのです。
競技で最下位付近をうろうろしている人たちの、幸せの秘
訣については、残念ながら本書では触れられていません。
しかし、屁理屈をこねるようですが、オリンピックは
「参加することに意義がある」
ともいいます。
たとえ最下位に沈んだとしても、オリンピックに出場でき
ない人の方が遥かに多いことに思いを至らせれば、参加
できた自分が幸せだと納得できることでしょう。
一生を通じても、経営者になれる人は限られているのです。
経営者という立場で仕事ができる、という一事をもって
幸せを感じることができれば、少々の業績不振などにくよ
くよしないで、胸を張って頑張れるかもしれません。