リゾット アマルコルド | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/7/29

ぽっかり空いた胸の奥につめこむ・・・【リゾット アマルコルド】

『架空の料理 空想の食卓』
        リリー・フランキー、澤口知之著 扶桑社

リリー・フランキーさんが出したテーマを、料理人である澤口知
之さんが料理へと翻訳する。
本書にはこうして出来上がった料理の数々が紹介されています。

冒頭の“ぽっかり空いた胸の奥につめこむ飯”。
これは高度経済成長末期にはやった歌謡曲「失恋レストラン」の
歌詞の一部です。
「失恋レストラン」には“好きな女に裏切られて、笑いを忘れた
道化師”や“恋の魔術を使えない、愛をなくした手品師”が訪れ
ます。

彼らの“ぽっかり空いた胸の奥につめこむ飯”とはいったいどん
なメニューなのか、歌詞には書かれていません。

澤口シェフの答は、【リゾット アマルコルド】でした。

パルマ風リゾットに季節の野菜を加え、生ハムを巻きつけ、乳房
型に盛り付けました。
「失恋レストラン」を清水健太郎がギターをかき鳴らして歌って
いた当時、人気のあったフェデリコ・フェリーニの映画『アマル
コルド』の食事シーンが発想の原点だそうです。
失恋によるストレスに打ち克つためには「適量の酒、腸管の働き
をよくするためのキノコ、精製度の低い穀物、豆、根菜、チーズ
が必需食品」なのだとか。

“ぽっかり空いた胸の奥につめこむ飯”の答はもちろん人それぞ
れに思い当たるでしょう。
本書でも【カツカレー】と答えた評論家や【玉子入り雑炊】と声
をひそめたライターのことに触れています。

ぽっかり胸に穴が空くような失恋とも、とんと縁がなくなりまし
た。
かつての自分にとっての「失恋レストラン」とはどこで、いった
い何を詰め込んでいたのかも、遠い年月のかなたにかすんでしま
って、もはや記憶が定かではありません。
ただ蘇るのは、じゃりじゃりと【砂肝】を噛むような不快な食感
の記憶ばかりなのです。