技能と技術 | 店舗探し.comの過去コラム

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2013/1/25

『日本農業への正しい絶望法』
    神門善久著 新潮新書

本書はもちろん農業を語った本です。

農業に関してはまるで素人ですから、事例を引きながら論理的に
しっかりと構成された本書を読み、なるほどその通りと説得され
てしまいました。

しかし、本書は、タイトルの冒頭「日本農業」の部分を「物販業」
「飲食業」「サービス業」と置き換えて『~への正しい絶望法』
とついていたとしても十分通用する内容だと思います。

著者は農業が、一般的な製造業とはちがうことを説明するために
【技能と技術】という言葉を使用しています。

“「技術」と「技能」の違いを一口で言えば「マニュアル化でき
 るか」だ。
 マニュアルに書いてあるとおりに操作をすれば必ずその製品は
 予定された機能を発揮する。

 ・・・安くて手軽なパック寿司ならば、とくに料理の修業をし
 ていない労働者でも、マニュアルに沿って作ることができる。

 機器や薬品を適宜使うことで、素人の労働者でも、それなりの
 味わいを楽しむことができる程度のパック寿司を作る。

 これに対し、板前の場合は長年の修業を積まないと寿司が握れ
 ない。
 その修業も、最初はゴミ出しとか食器洗いとか、寿司を握ると
 いう作業には直接関係しないような作業が多い。
 給料も安く、親方にこき使われながら、寿司とは何かを体得す
 る。

 そういう下積み時代を五年、十年と修業してようやく寿司が握
 れるようになれば、年老いても、店が変わっても、一丁前の板
 前として敬意を受け、じゅうぶんな収入も得られる。”

著者は技能無き素人や企業が次々農業に参入し、技能集約型農業
が、パック寿司を作るようなマニュアル依存型農業に駆逐されて
いく状況を憂いています。

しかし、この憂いは農業に限ったことではないでしょう。

グローバル化と、日本市場の縮小によってこれからはあらゆる業
界において競争は激化していきます。

マニュアル依存型ビジネスは模倣が容易ですから、儲かるとわか
れば新規参入が相次ぎ、品質に違いのない商品やサービスは間も
なく価格競争に巻きこまれてしまいます。

一方、技能集約型ビジネスは模倣が難しく、板前の例を引くまで
もなく、成果を上げられるようになるまでに多くの時間とエネル
ギーを要します。

新規参入への障壁が高くなりますので、手っ取り早い成果を求め
る企業は、技能集約型ビジネスには参入してもすぐには儲からな
いことに気づくと、すぐにそのビジネスを断念し、結局はマニュ
アル依存型ビジネスになだれ込むことになるのです。

シェア争いはライバルの数が多いほど激しくなります。

恒常的にパイが縮んでいく中をなんとか生き延びていくためには、
あらゆる産業において、ライバルの少ない技能集約型ビジネスへ
の質的変換を急いで達成しなければならなくなるでしょう。