『THE ARRIVAL(アライバル)』 | 店舗探し.comの過去コラム

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2011/6/15

この本は読むことができません。

『THE ARRIVAL(アライバル)』
   ショーン・タン作 河出書房新社

なんとも不思議な本です。

なにしろ最初から最後まで、一切の文字はありません。
絵ばかり描かれているのだから絵本だ、ということはもちろん可能
です。
しかし、コマ落としの多様など、コマ割りはむしろ映画にこそ近く、
サイレント映画と表現した方がしっくりくるかもしれません。

文字が無いからといって、内容が大味なわけでは決してありません。

ある一家が新天地へ移住するまでの顛末が描かれているのですが、
文章を介さない分、メッセージはダイレクトに胸に迫り、言葉以上
の豊饒なニュアンスをもたらしてくれます。

おそらく、文字を使わないというハンデを自ら課すことで、作者の
グラフィック表現の可能性を追求する覚悟が、より研ぎ澄まされた
のでしょう。

文明の進歩とは、一方で人間の能力を退化させることでもあります。
車の普及は人の足腰を弱らせ、コンピューターの進化は記憶力を減
退させていきます。

ツイッターやフェイスブック、グルーポン・・・。

情報テクノロジーに裏付けられた新しい表現手段の登場は、企業の
広告やマーケティング戦略に改訂を迫り、他社に遅れをとるわけに
いかない企業は、新旧入れ替えの対応に追われるばかりです。

多彩な表現手段で溢れかえる現代では、サイレント映画時代へと先
祖がえりした『THE ARRIVAL』の手法はむしろ新鮮に映ります。
これまで無造作に、倉庫に仕舞い込んできた古臭い手段にも、現代
だからこそ有効な、盲点のようなお宝があるかもしれないと、気づ
かせてくれました。

『THE ARRIVAL(アライバル)』はそれこそ5分もあれば内容が理解
できてしまいます。
是非お読み、いや、ご覧ください。