読書メモ「未必のマクベス」(早瀬耕) | IN THE WIND

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この作家の作品は初めて。書店の文庫売り場前のワゴンに平積みされ、書店員の思い入れのこもった推薦のポップに騙されたと思って手にしてみた。いろいろ突っ込みどころは多いのは確かだけれど、香港を主な舞台に日本人ビジネスマンが数奇な運命に巻き込まれるストーリーはなかなかスケールが大きく、読者を飽きさせずに読ませる力に満ちている。

 

タイトルはシェイクスピアの悲劇「マクベス」から取ったもので、勤め先の陰謀と戦う主人公をマクベスになぞらえている。恥ずかしながら僕はシェイクスピアを読んだことがないけれど、マクベスの大まかな筋は作中で説明されるので、マクベスを未読であっても本作は十分楽しめる。ただ、主人公をマクベスになぞらえた作者の意図は僕にはまったくわからない。

 

主人公の中井は東南アジアで大きな商談を成功させ、38歳で香港の子会社社長に異動する。ただ、その会社は親会社に裏金を上納するために存在し、出向した社員が使い込みなどの不正で自殺したり行方不明になったりして一人も生きて帰国していないという怪しげな会社だった。そうとは知らず、中井は部下で高校の同級生でもあった伴とともに香港に赴任する。

 

一見栄転に見えた異動は組織から汚れ役を押し付けられたに過ぎず、ゆくゆくは不正の濡れ衣を着せられて殺されると悟った中井は運命に抗うべく、本社に立ち向かう。伴をはじめ、何かと中井を助ける某独裁国の亡命者、中井の運命を予言したコールガール、子会社の秘書と、脇役の登場人物も多士済々で物語を豊かに肉付けする役割を果たしている。

 

物語のキーパーソンとして、中井の同級生だった冬香が登場する。高校時代に互いに好意を寄せながら恋は実らず、長年音信もなかったのだけれど、香港で中井は冬香から自分に宛てた手紙を見つける。その女性も幽霊会社にかかわり、行方不明を装って逃亡していたのだ。彼女を見つけようとするために中井は自ずと、組織との泥沼の戦いに巻き込まれてゆく。

 

偶然に頼ったり、都合のいい展開が多く、細かな欠点を挙げればキリがないけれど、推進力のある物語の力強さが読者を強引に巻き込んでゆく。そして中井と冬香の高校時代から20年を隔てた恋物語が切ない裏メロのように響き合う。カバー裏表紙のあらすじが謳う「異色の犯罪小説にして、痛切なる恋愛小説」はあながち誇大とも言えない。(ハヤカワ文庫)

 

【21日の備忘録】

休肝日2日目。朝=ご飯1膳、肉じゃが、リンゴ、昼=焼きそば、ミニトマトと茹でブロッコリー、夜=肉じゃが。体重=59.4キロ。