読書メモ「旅する練習」(乗代雄介) | IN THE WIND

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4月から強豪の女子サッカー部がある私立中学に入学する予定のサッカー少女が小学校最後の春休みに、小説家の叔父と千葉県の手賀沼から茨城県の鹿嶋市まで利根川沿いを歩いて旅するロードノベル。少女はサッカーボールを携えドリブルしたりリフティングしたりしながら歩き、叔父は行く先々の風景を書き留めながら歩くので「旅する練習」。

正直なところ、叔父の描写する風景、とりわけ鳥類や植物のディティールがうるさくて、半ば退屈しながらなんとか最終ページにたどり着いたのだけど、衝撃の結末に思わず「えっー」と声を出してしまった。慎重に読み返すとその結末をほのかに示唆しているかのような箇所がいくつかあるのだけれど、ボーッと読み飛ばしていた自らの不明を恥じるばかり。

叔父の風景描写はともかく、愛嬌たっぷりで幼さを残す一方、少しおませでこましゃくれた面も持ち併せる少女の描写は秀逸。コロコロ笑ったり真剣にリフティングしたりする少女を目の前にしているかのような感覚に陥る。この少女の描写がこれほどビビッドでなければ、叔父の風景描写の退屈さに耐えきれず、途中でこの小説を投げ出したかもしれない。

それほど少女の存在感が鮮やかだったからこそ、結末の衝撃は読者の胸により重く、より深く刺さるはずに違いない。しかも作者は最後のわずか1ページほどで、淡々と叔父にその重い結末を語らせる。退屈に思えた風景の描写は、叔父にとって濃密でかけがえのない姪の記憶であり、感情を抑えた筆致が衝撃の深さをより効果的に浮かび上がらせた。(講談社文庫)
 

【14日の備忘録】
休肝日2日目。朝=ご飯1膳、ベーコンとキノコのソテー、リンゴ、昼=豚バラねぎ塩丼、ミニトマトと茹でブロッコリー、夜=ジンジャーチキン。体重=60.4キロ。