読書メモ「中村哲さん殺害事件 実行犯の『遺言』」(乗京真知) | IN THE WIND

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戦乱と貧困、干魃に苦しむアフガニスタンの人々を灌漑施設の整備による農地開拓などで支援し、現地の人から大きな信頼と親しみを寄せられていた中村哲さんが2019年12月、車で移動中に襲撃されて死亡した。事件をずっと取材してきた新聞記者が真相や背景に迫ろうとする渾身のルポルタージュだ。

 

唯一生き残った運転手や目撃者の証言、防犯カメラの映像などから襲撃時の様子を詳細に描き、中村さんが病院に運ばれて亡くなるまでの様子も詳しい。徹底した当事者取材で他のメディアの追随を許さない独自の取材成果をふんだんに盛り込み、少しずつ事件の謎を解いてゆく過程に一気に引き込まれる。

 

実行犯の特定、共犯者の存在、アフガン情報機関がこの襲撃の兆候を事前に把握し、中村さん側に警告していたことなど、衝撃的な事実が次々と提示される。関係者の証言だけでなく、アフガン当局から中村さん側に宛てた警告書の画像まで遺族から入手した裏付け取材の徹底ぶりには感服するほかない。

 

事件の背景として、元来アフガンと敵対的で同じく水不足問題を抱えるパキスタンの組織の関与を指摘している。中村さんの灌漑事業は隣国パキスタンに流れ込むクナール川の水を利用している。アフガンで英雄視される中村さんはパキスタンにとっては好ましからざる人物で排除に動いたというわけだ。

 

アフガン当局の失敗も明るみにする。実行犯を特定しながらパキスタンに逃げた共犯者もろとも捕まえようと計画。実行犯が共犯者と再び接触する機会をうかがっているうちに、実行犯が別の襲撃事件を起こして反撃されて死亡し、パキスタンにいる共犯者を捕まえる機会は限りなく遠のいたという。

 

米国が支えたガニ政権から米軍撤退後に政権に復帰したタリバンの幹部まで幅広い人脈を築いた取材力に加え、事件で亡くなった中村さんの護衛の家族に寄り添う姿勢に頭が下がる。働き手を亡くしてタリバン復権で働くこともできない護衛の妻が取材に応じる気持ちになるまで2年待ったという。

 

危険が察知されていたのに事件を防げなかった疑問を指摘しつつ、単線的な責任追及に走ることなく、同様の事件を防ぐための教訓を得ようとする視点も重要だ。巻末には新聞社のポッドキャストで配信された著者のインタビューを収録、本書を手軽におさらいできるのがいい。(朝日新聞出版)

 

【14日の備忘録】

休肝日4日目。朝=ご飯1膳、ウインナーとシイタケのソテー、リンゴ、昼=ご飯1膳、トルティージャ、ミニトマトと茹でブロッコリー、夜=豚モヤシニラ鍋。体重=59.2キロ。