読書メモ「台湾の本音」(野嶋剛) | IN THE WIND

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1月にあった台湾総統選の際、新聞などの記事を読んでいて彼の国についての基礎知識の無さを痛感した。総統選直前に新聞の書評欄に掲載された台湾関連本の特集で、「台湾の現状を手っ取り早く知りたい人」向けとして紹介されていたので手にとってみた。

 

「隣国を基礎から理解する」の副題に偽りなく、台湾の歴史から内政事情、国民性、中台関係、日台関係などについて解説。六つの問いを設定して話し言葉で答える形式で書かれ、書評の表現を借りればまさに「コンパクトでわかりやすく」解説されている。

 

国共内戦に敗れて台湾に逃れて来た蒋介石が大陸反攻の旗を降ろさなかったのに対し、跡継ぎの蒋経国は現実路線で経済発展や国民生活の向上に力を入れ、父の代から38年続いた戒厳令も解除。1990年代に実現した民主化に向けた道筋をつけたと評価する。

 

台湾の人々が自認するアイデンティティの変遷が興味深い。30年以上続く世論調査で「私は台湾人である」「中国人である」「台湾人であり、中国人でもある」の選択肢から選ぶ回答は1992年は「台湾人であり、中国人でもある」が46%余りを占めたという。

 

「中国人」は約25%、「台湾人」は17%余りだったが、95年には「中国人」「台湾人」が逆転し、2000年代後半には「台湾人」がトップに立ち、2020年には67%にも達したという。ただ単に時の流れとともに変化したのではなく、その背景も読み解いてゆく。

 

皇民化教育を受けた日本統治時代も完全には日本人に同化できず、大陸から来た国民党の統治も強権的で抑圧された経験から「自分たちは台湾人なのだ」という意識が強まり、民主化を経て「中国とは別なんだ」という台湾アイデンティティが成熟したという。

 

台湾有事についても一章を割き、中国共産党の「一つの中国」政策が変わらず、内戦状態が終わっていない現状自体が有事だと指摘。米中関係が緊迫する中で中国による台湾侵攻という時限爆弾を破裂させないよう台湾の現状の永続化を図るほかないと説く。

 

日本人が抱く「親日国」のイメージの源泉として、ビデオなどでこっそり持ち込まれた志村けんさんの番組と笑いが、自由の象徴として受け止められた影響の大きさを挙げていたのが意外だった。一方で、台湾の人々の親日性は単純ではないとも注意を促す。

 

東日本大震災で台湾から70億台湾ドルもの義援金が寄せられたが、中国の四川大地震でも同額程度の義援金が集まったとし、一つの関心事に突き進むブームに乗りやすい国民性を挙げている。であるからこそ、選挙によって政権交代が度々起きてきたという。

 

また台湾の人々の親日性をめぐり、外国人が他国の人々の思いを政治的な立場やイデオロギーに基づいて強引に論じないことが大事だ、という指摘は大いにうなづける。自らの知見を押し付けない著者の穏やかな語り口は信用を置ける。(光文社新書)

 

【6日の備忘録】
朝=ご飯1膳、ウインナーとシイタケのソテー、リンゴ、昼=ご飯1膳、牛肉とレンコンの甘辛炒め、ミニトマトと茹でブロッコリー。飲酒=生ビール1杯、白ワイン3杯。体重=60.4キロ。