読書メモ「水曜の朝、午前三時」(蓮見圭一) | IN THE WIND

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(ややネタバレあり)

2001年刊行で文庫版で24刷を重ねるベストセラー。サイモンとガーファンクルのデビューアルバムと同じタイトルだったので以前から気になりつつ、手に取る機会がなかなか訪れなかったけれど、書店の文庫コーナーで平積みされていて「今、再び売れています」という宣伝文句に騙されたつもりで買ってみた。


脳腫瘍で余命わずかの翻訳家・詩人の直美が、娘の葉子に向けて人生を回顧したテープを、直美の死後に葉子と幼馴染であり、夫でもある「僕」が書き起こす設定。直美の回顧録であるとともに、幼少期から大人の女性として直美に恋心を抱いていた「僕」が直美の人生をたどり、エールを贈る物語でもある。


団塊の世代の直美は祖父がA級戦犯という旧家に生まれ、お茶の水女子大卒業で才色兼備の誉れ高く「間違いを犯すことが想像できない」自信家だった。父親の決めた結婚に反発し、自ら応募した大阪万博のホステスとして東京を半年以上離れた直美が、大阪で出会った臼井という男との恋愛が物語の軸だ。


直美の回想は、情景、心情、会話のいずれの描写をとってもビビッドで、万博という非日常の祝祭感に浮かれた当時の世情とともに、音や匂い、色彩感を伴って立ち上がってくるよう。自信たっぷりの直美は鼻につくどころか、「僕」と同様に憧れのヒロイン的でもあり、起伏あるストーリーに一気に引き込まれる。


自分にふさわしい男、恋を手に入れたつもりの直美だったが、万博の会期が終わるころ、臼井が朝鮮半島出身者であることを知って混乱する。臼井に短い手紙を書いただけで逃げるように東京に帰った直美は臼井からの連絡にも一切取り合わず、父親が新たに見つけた相手との「結婚の中に逃げ込む」ことを決める。


相前後して、直美の心を大きく揺らす黒い縁取りのハガキが届く。臼井の妹で幼馴染のように仲良くなっていた成美の訃報だった。結婚はしたものの新聞記者の仕事で忙しく、ほとんど家にいない夫から旅を勧められた直美は成美の一周忌に一人で京都へ墓参りに行って臼井と再会し、「二人」に謝罪するのだ。


民族差別という軽々しく扱えない悪弊をストーリーの分岐点として小道具のように使った居心地の悪さは残る。一方で、直美が恋心の赴くまま臼井のアパートを探し訪ね、家主から「臼井という人は住んでいない」と言われる場面があり、作者が何気なく忍ばせた伏線を見落とした自分の迂闊さにあ然とする。


書名は成美の亡くなる曜日と時刻であり、S&Gの同名の曲は罪を犯した男が恋人との別れを歌う。若き日に「間違いを犯すことが想像でき」なかった直美が臼井と成美を傷つけ、深い後悔と自責の念を抱きながらなお、心のままに生きようとする再生の物語が、単なる恋愛小説を超えた深みを与えている。(河出文庫)


【30日の備忘録】

休肝日3日目。朝=焼き餅3個、リンゴ、昼=鶏中華そば、ミニトマトと茹でブロッコリー、夜=牛肉とレンコンの甘辛炒め、茹でブロッコリー。体重=59.4キロ