【 サラエボの花 】 | Darkside of the Moon

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こんばんは、ジュンです。


以前見た 『 サラエボ、希望の街角 』 を撮った監督のデビュー作。

BSで放送されて録画したままになっていた作品を、発掘いたしました。

【 サラエボの花 】 の感想です。




  ボスニア・エルツェゴビナの首都サラエボ。

  娘のサラと二人暮らしをしているエスマは深夜遅くまで働く日々が続き、

  まだ幼い娘サラは寂しさを募らせていく・・・。

  ある日、サラは学校のクラスメイト・サミルと喧嘩をし、

  それをきっかけに「父親を紛争で失った(殉教者)」という共通の生い立ちから、

  次第に親しくなってゆく。

  サラは母・エスマから、「父は殉教者である」と小さい頃から教えられており、

  サラ自身、それを誇りに思っていた。

  しかし、学校の修学旅行をきっかけに、父親の死に疑問を持ち始める。

  父親の戦死証明書があれば旅費が免除されると言うのに、

  父親の死体が見つからなかったから戦死証明書の発行は難しいと、

  言い訳をするエスマ。

  そんな母に不信感を募らせてゆくサラに、

  クラスメイトが「戦死者リストに父親の名前が無い!」 からかい始める。

  そしてある日、耐え切れなくなったサラは、「真実を教えて欲しい」と、

  友人・サミルから預かった拳銃で母を脅してしまう。

  仕方なく、エスマは隠し続けてきた過去の秘密を話してしまう・・・。



またひとつ、映画から辛い歴史を学びました。

1992年から1995年にかけて起こったボスニアの内戦。

当時、ニュースで盛んに報道されておりましたが、

どこかの国の内戦・・・ という程度の意識しか持っておりませんでした。

なので、この作品の裏側にある真実を、何も知らずにこの作品を見ました。



母親と娘の二人暮らしの生活。

父親は戦争で死んだ殉職者。

その二人の生活が、淡々と映し出されます。

ごく普通の、シングルマザーの家庭・・・


しかし、込み合ったバスの中胸毛の濃い男性が近くに来ただけで、

気分が悪くなり、バスを降りてしまったエスマ。

仕事先の深夜のナイトクラブで、痴態を繰り広げる男と女の姿に我慢できず、

控え室に逃げ込み薬をあおる。

この辺りから、エスマがトラウマを持っていることに気が付きます。


さらに、娘に父親は殉教者だと話しながらも、

なぜか奥歯に物の挟まった様子に、

内紛中、彼女の身に何かがあったのだろうと想像できるのです。

娘の修学旅行をきっかけに、事実が隠しきれなくなったとき、

彼女が告白した内容は、悲惨な過去。


内紛時、セルビア人に制圧されたムスリム人地区に住んでいたエスマは、

戦争戦略のひとつとして取られていた、『民族浄化』 の犠牲になっていたのでした。

  制圧地区の女性を強姦し、兵士の士気を高めるとともに、

  女性に対する精神的ダメージを与える。

  そして、異民族の子供を妊娠させることで、大きな不名誉と恐怖の感情をもたらすと同時に、

  生まれてくる子供によって、セルビア人の血でムスリム人を淘汰する。

  そのために、妊娠した女性は一定期間拘束され、

  堕胎できない状態になってから解放されたという。



以前、自分と父親はどこが似ているのか訪ねた時、

「髪の色かな」と言われていたサラ。

エスマの衝撃的な過去を伝えられ、自分の頭を丸坊主にしてしまいます。

それまでは不信感が拭えずに、何かと反抗的な態度を取っていたサラが、

母親との関係を受け入れた瞬間だったのではないでしょうか。


女性たちが集まるセラピーで語る想い・・・

  妊娠中、殺したいとまで思った赤ん坊なのに、

  出産後、泣き声を聞いたとたん母乳があふれ出した。

  その子を抱き上げると、弱々しくて小さくて、とてもきれいな女の子だった。

  こんなに美しいものがあることを、私は知らなかった・・・



あまりにも忌まわしい過去。

その結果生まれた新しい命を、彼女は母親として受け入れたのでした。

今現在、エスマとサラのような状況で生きている人たちが、

この国にはどれだけいるのでしょうか。

内紛が終わって、表面的には静かな生活が送れるようになってはいるのでしょうが、

心の中に大きな傷を負いながら、セラピーを受けている女性たち。

そして、自分の生い立ちを背負い生きている子供たち。


悲惨な戦闘シーンも、崩壊した廃墟の街も出てこない作品です。

しかし、戦争で犠牲になった女性達の悲しみが、切々と伝わってくる作品です。



ラスト、強張った表情で修学旅行のバスに乗り込んだサラが、

見送りのエスマに向かってはにかんだ笑顔を見せ、小さく手を振ります。

自分の出生の事実を受け入れ、前に踏み出したサラの姿に、

救いを感じた管理人でした。


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