ラスプール学院へと戻った一行は、すぐに女生徒達に囲まれて
大騒ぎとなった。
もともと女生徒の比率が大きかったため、本校から男子が送り
込まれたのだが、それでもまだ6:4くらいの比率で女生徒の
ほうが多い。

「ちょっと水奈~!抜け駆けするなんてずるいっ」
「何話したの、ねぇ」
「まあまあ、落ち着いて並んで聞きたまえよ諸君」
水奈は明るく誰にでも優しいので、一年生なのに上級生からも
人気がある。得意げに話す水奈を遠目に見つつ、しのりは籠を
倉庫へと運んだ。

しのりは、基本的に人付き合いが苦手だ。笑って話せるのは水
奈くらいで、目立たぬようひっそりと静かに学院生活を送るこ
とにしている。

「こいつはどうすればいい?」
逆光の中、麻袋を持った京咲が倉庫の入り口に立っていた。
「あ、すみません。そこで結構です」
「奥まで運ぶんだろ、ついでだ」
「どうも…」
上目遣いでペコリと軽くお辞儀をする。

学院の倉庫は広い。一人で奥の貯蔵庫まで持って行くのは重労
働だし、その上薄暗くてちょっと怖いのだ。
素直に好意を受け取ることにした。

天窓から差す光を頼りに、貯蔵庫までの長い廊下を歩いている
と、不意に懐かしい香りが鼻をくすぐった。
「あれ?」
「どうした」
「いえ、この香り…茉莉花?」
「ああ」
京咲の胸元に、銀の刺繍がされた香り袋がぶら下がっていた。

「なんか、懐かしい感じがして」
「…」
「男の人が香り袋って、珍しいですね」
「昔、大切な人から貰った」
何故かその言葉に、ちくりと胸が痛んだ。

「あ、そこが貯蔵庫です。すみませんでした」
「気にするなって」
麻袋を棚に置き、服の埃を叩き落としている京咲見てくすりと
笑った。
「相変わらず、きれい好きなんですね」
「何っ?」
「あれ?」
しのりは自分の言った言葉に首を傾げた。
(私、なんできれい好きって知ってるんだろう?)

「今、何て言った!」
京咲がすごい形相でしのりを見ている。
何か気に障る事でも言っただろうか?

「いや、あの…。きれい好きですね…って」
「その前だ!相変わらずって言っただろう!覚えてるのか!?」
「ちょっ…え、あの、何?」
壁際に押しつけられ怯えている姿を見て、我に返った京咲は、
そっとしのりから離れる。

「すまん」
「あ、あの…。どうもありがとうございましたっ」
勢いよくお辞儀をして、猛ダッシュで入り口へと走っていくし
のりを、壁にもたれかかったまま、ぼんやりと眺めていた。

「くそっ…」
ダンッと壁を左手の拳で叩いた。
パラパラと落ちる埃が京咲の髪を白く染めた。

「何やってんだ、俺は」

大きくため息を一つすると、髪の埃を払って倉庫を後にした。