相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒) -8ページ目

相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。




オープニングテーマ曲:YOUTHFUL - 99RadioService



















ヨシエの『スーブス』パワーをまざまざと見せつけられたジュンペイとエツコはすっかり毒気を抜かれ、やり場のない気持ちに戸惑っていた。やがてジュンペイはあることに気づき、慌てて席を立った。「ヤバい!!カッちゃんが喰われちまう」


「……私もいく!!責任あるもん」

親友の自分以外に対する行動パターンは熟知するエツコもあとに続く。残された吉野先生は右手でチョークを真っ二つに割った。真紅の唇をわなわなと震わせたが、苛立ちをぶつける相手はここにはいなかった。












そのころ、保健教諭である柴野由美がいるはずの保健室では、ヨシエのアツい吐息とカッちゃんの阿鼻叫喚が交錯していた。









「さあ♪アタクシの提案を貴方は受け入れるの?決して悪い取引じゃないハズよ」


「……いやだ」


「よく聞こえないわ?貴方にはメリットしかないのよ?」


「嫌だあぁぁぁぁぁぁ助けてくれぇぇぇ」


保健室は別館にあり、ジュンペイとエツコは渡り廊下を走っていたのだが、そのとき確かにジュンペイたちはカッちゃんに何かが起こったことを悟った。ジュンペイは思わず立ち尽くし、エツコにぽつりといった。

「……ついにヤられちゃったかな」


「……まさかヨシエに限ってそこまで強引なことはしないと思ってたけど……いくらカッちゃんを好きでも女の子なんだし」


「バカいえ……あいつは欲しいものなら力ずくで奪うケダモノさ」



やがて、顔面蒼白となったカッちゃんがふらふらした足取りで向こう側から歩いてくる。制服は嵐に遭遇したかのごとく乱れ、髪の毛は総毛立っていて、まるでタガメに生気を吸いとられたメダカだなとジュンペイは思った。


すれ違いざまに声をかけようとしたが、吹けば倒れる葦のようなカッちゃんに何といえばよいか躊躇っていると、逆に話しかけられた。季節外れの蚊がふわぁんと鳴いたように。


「お前たちも来いよ……責任とれ……」


ぞくりとした。とてつもなく嫌な予感がしたが、おそるおそる問わずにはいられない。

「……どこに?」



「……ヨシエとのデートだよ……」












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いわば純粋培養のエツコにはヨシエの腹黒さを見抜くだけの眼がない。どこまでもお人好しのエツコの懐(ふところ)にずぶずぶと入り込んでいるのが、『スーブス』の異名をもつヨシエの真骨頂だった。



『スーブス』とは一年前に発売されたのに今もなお大ヒット中のファミコンソフト『スーパーマリオブラザーズ』の略称をもじったあだ名である。ヨシエ本人の知らないところで広まっており、このあだ名も薄木市内では本家『スーマリ』にひけをとらず大流行だった。それだけヨシエの性格はスーパーなブスなのだった(あれだけのブス顔にも関わらず、顔が由来でないのはある種の奇跡である)。なまじっかスタイルだけは抜群の八等身だけに、そのギャップに周りはドン引きするというわけだ。




今回もヨシエはエツコをやきもきさせることに成功していた。だが実は、ヨシエの真の狙いは別にある。


「すん…すん…」



(うげ、気持ち悪ぃ)


クラス全員が嫌な予感を察した瞬間、その矛先はクラス一の不良な優等生である茂木克明に向かっていった。


「ねぇ、茂木クン。悪いんだけどアタクシを保健室まで連れてってくれないかしら」



さすが『スーブス』だけあるぜ……ダチの俺でもあんな無茶をカッちゃんに頼めねーわ。ジュンペイはこれから起こるだろうバトルに寒気を抱いた。案の定、カッちゃんは拒否反応を隠そうともしなかった。


「なんで俺がスーブスの面倒を見なきゃいけねーんダヨ!!」


「貴方は保健委員なんだから私を介護する義務があるのよ(ニヤリ)」


ヨシエはこの台詞を言いたいがために、カッちゃんが学校をサボった日にクラス役員選任投票を行わせたのだ。ヨシエは白澤財閥の財力をもって保健委員にカッちゃん票をそそぎ込んだ(これを俗に賄賂と呼ぶ)。ジュンペイはこのときようやくヨシエの策略に気づき戦慄したのだった。


そんなヨシエを知らないエツコはヨシエの心配をするばかりだ。「カッちゃん、お願いできるかしら」


若い吉野先生はライオンに睨まれたシマウマのように縮こまっている。四面楚歌。カッちゃんにはもはや選択肢が残されていなかった。そして、哀れなプレーリードッグはライオンにかかえられて保健室に向かったのだった。まるでライオンが獲物を巣穴に持ち帰るように……。


















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「どーすんのよ……これから」


「いいから黙って勉強しろよ」


「そうやって都合悪くなると逃げるんだから……」


都合悪くなってるのは私ですけど?黒板の前で若い英語教師吉野が手に持ったチョークを震わせていたが、あつくなった二人はまったく気にかけていない。吉野にしても、学年トップの優等生アイドルに正面きって注意できないのだ。



「仕方ない奴ね……私が勉強教えてあげるわよ」


「誰が勉強なんかするかよ!間違ってもお前からは教わんないってば」


毎度お馴染みの風景にクラスメイトも華麗にスルーする。薄木市きってのアイドル女子高生が、なんだって脳ミソまで筋肉でできている単細胞のことを好きなのか理解できないが、どのみちカップルになんかならないとたかを括っていた。順平にしても、親衛隊に半殺しにされると分かっているはずだ。


そんな外野の観戦をよそに、二人の口論はヒートアップしていく。


「いったわね!!あんたなんか二回死んでも大学にいけないんだからっ!!」


「おう問題ねー。俺はお前みたくチャラチャラしに大学目指してる奴はキライだ!!」


「エツコのこと知らないくせに、勝手に決めつけないでよ!!」




その瞬間、1年A組の部屋内が凍りついた。悦子の隣に座る親友、白澤良枝が叫んだかと思うと机に突っ伏し泣き出したからだ。吉野と生徒全員はこう思った。





なんでお前が泣くんだよ……







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こういうのを『元の木阿弥』っていうんだっけ?



順平は珍しく自虐的に一人ごちた。生まれてこのかた、後悔とは無縁の人生を送ってきたが、それでも今回の一件は堪えた(こたえた)。順平にとって、陸上とは人生の一部いや人生そのものといってもよかった。彼女がいてもいなくても女そっちのけ、好きなことを犠牲にしてきてまでも走り続けてきた。『かけっこの早いジュンちゃん』から『地元期待の星』となり、黄色い声援を背に受けかけ上がってきた。突如、梯子(はしご)を外されても対処できない。本当は自分で梯子を蹴り飛ばしたのだが、そんなことには一切気づかないのが藤木順平その人だった。



ただし、順平は、過去に起こったことよりも、これから何をしていくかのほうがはるかに大切なことを知っていた。――嫌なことはしないさせないやらせない――これまで生きてきた15年で通してきた信条を念頭に、順平は考え続けた。これだけ真剣に考えたのは、かつてなかったほどだった。



時間にして1時間ほど。気づけば自分の机にはヨダレが地図を描いていた。さっきまでは現代国語の授業だったはずだが、いつの間にか田中“ハゲピカ”先生が消えていなくなり、代わって吉野センセーが英語をペラペラ話している。吉野センセ、可愛いなぁ~。一度デートしてくんないかなぁ~。


すると横から手刀がとんできた。
「ヘラヘラしないの!!このスケベ」


順平が隣をみやると長野悦子が睨んでいた。順平は面倒くさそうに、わざと鼻をかきながら反論した。


「はぁ?俺スケベじゃねーし。つーかそっちこそ真面目に勉強しろよ。高校まで俺についてきやがって……」


「あんたが真似してきたんでしょ!!陸上バカのくせして。なのにどーすんのよ?辞めちゃって……」


悦子は順平と違って学力で特待生として薄木高校に入学している。しかも抜群のルックスであり、入学早々学校内外に親衛隊ができるほどの人材だった。悦子と順平は幼稚園からずっと同じいわゆる幼なじみだったが、何から何まで正反対な性格で常に反目しあってきた。磁石でいえば対極にある二人だが、内面ではお互いに相思相愛にある。周りの友人たちからすれば余計にたちが悪いのだった。











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第1章:薄木高校入学!!





まだ入学して半年も経っていないのに、藤木順平の通うK県私立薄木高校の校庭には暗雲がたちこめていた。案の定、翌朝は12月だというのに横殴りの雨。自然豊かな薄木市特有の針葉樹の枯れ葉が排水溝にべっとりたまっているはずだ。順平の気分もつられて狂暴な低気圧となっていた。



「朝練、サボッちまうかな……」



悪魔の囁き。英語では"Speak of The Devil "というんだっけ。以前、カッちゃんから借りたオジーオズボーンのライブアルバムの名前だったから自然に覚えていたが、順平に語学力など皆無に等しい。順平が県内有数の進学校にいるのはスポーツ推薦の特待生だからだ。


そんな彼が陸上部の部活をサボりたくなるのには理由があった。朝練はぶっ飛ばされないから一年生は行くのだ。先輩風を吹かした奴等のいない朝練では自由に練習できる。上級生のいる放課後は無法地帯だった。順平たちはむろん走るために入学してきた。それなのに、まともに走ることができないなんて理不尽だ。顧問にも掛け合ったが、アダ名が『もやし』の先生じゃ何もできない。鬼コーチはこの状態を黙認している。だったら俺が行動しなきゃな。



順平は朝練に行かず、頭のいい学生たちと同じ時間帯に通学することにした。放課後、キャプテンなのに一番ムカつく宇津木のロッカーで奴を待っていた。


「なんだよ」


「どうもキャプテン。ちょっと顔貸してくれますか☆」


「なんだお前。生意気なクチききやがって」








吠え面かくんじゃねーぞ。覚悟を決めたジュンペイ様をなめんなよ?直情径行な性格の順平は、一度キレると手がつけられない。後先考えず陸上部のキャプテンを病院送りにしてしまい、本人は退部と停学のダブルパンチを食らってしまった。同級生からは賞賛の嵐だったが、担任と両親からは雷を落とされた。ひれ伏して退学だけは免れたが、基礎学力のない順平に残された道はあまりにも険しかった。有り余った時間を勉強に費やすほど、彼は愚か者ではなかったからだ。














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茂木を乗せたタクシーは、彼の自宅のある神楽坂に近い飯田橋駅に向かっていた。茂木は、神楽坂の古民家を知り合いから格安で借りていた。かつては経堂や中目黒などの高級分譲マンションに住んでいたこともあったが、二度の離婚で譲り渡してしまった。今は、根なし草の生活が気に入っている。所有することは性に合ってないらしい。馴染みの居酒屋すらもたないようにしていた。


そんななかで、飯田橋駅から神楽坂へ上がる途中にある居酒屋『ふじき』は茂木が唯一通いつづける店だった。頻度は半年に一度あるかどうかといった程度だが、ある日だけは必ず立ち寄るようにしていた。それがまさに昨日だった。仕事が終わらず日付をまたいでしまったのはこれが初めてのことではなかったが、明け方になってしまってはさすがに閉店しているだろうと思ったが、念のため立ち寄ってみた。



『ふじき』の暖簾は下ろされていたが、すりガラスの向こう側は明るかった。悪いことをしたなと思いながら、引き戸に手をかけた。


「いらっしゃい」


やはり真奈美はカウンターで寝ていたようだった。だが馴れたもので、いかにも仕事が生活の一部になっている者の立ち振舞いだった。真奈美が割烹着を背中で結び直しながら厨房へ移るのを茂木は目で追っていたが、やがて目のやり場に困り、背のない椅子に腰かけた。



「遅かったじゃない」


「ああ。すまなかった」


「やだ。そういう意味じゃないのよ。こういうのは馴れてるし」


真奈美は口を押さえて笑った。確か初めて会ったときも、こんな笑い方をしていたと思った。出会ってから30年は経っているが、ずっと変わらない距離感を保ったままだ。その理由は、もっぱら茂木に原因があることをお互いが知っていた。










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実際、上の意向など江藤には関係ないはずだが。この人の損失は警視庁の損失であり、上層部は何とかして彼を元のワーカホリックに戻そうとしたが、本人がテコでも動かない。やむなく、江藤の気持ちがおさまるまで、待つことにした。江藤は、妻の行方が分かりそうなことのみ動いていたが、今回もその為なのか、あるいは永らく待ち望んでいた雪解けか。





毒島は江藤の命令でS県県警本部に来ていた。警視庁の人間が他県の管轄にいると、何の用事かと疑われる。さらにいえば、公安は、「公安」の「公」をもじって「ハム」と呼ばれるが、エリートである自分たちに対する嫉妬が入り混じった響きがある。昔から仕事の内容、進め方も非合法なものが多く、警視庁内部でさえヴェールに覆われているこの組織を、快く思う者は多くはない。自らも必要悪だと割り切っていた毒島だったが、江藤はそれを良しとしない人だった。根回しが大胆不敵だが巧妙で、しかも合法な捜査手法を極力とる。毒まで食らわば皿まで、とどっぷり浸かってしまう者が殆どであるなか、彼の直下の人間はことごとく改心させられた。実際、問題となったときに清廉潔白を主張できる、彼のやり方は非常にスマートだ。今回も、過去の未決事件のファイルを見せてほしい、という、実際に必要な要件を帯同させてくれた。ただし、それだけでは長く留まることができない。そこから先は、捜査員の実力である。


事前に収集した情報では、ターゲットの的場は例の事件があって以来、完全に干されている状況が未だ続いているようだ。優秀な刑事だっただけに、当初上層部は冷却期間をおいていずれ復帰させるつもりだったが、本人の気持ちが切れてしまったようだ。毒島も警察学校で一緒にしごかれた同期の中では最も優秀なグループのひとりだったと記憶しており、残念でならないが、この世界は不条理という材質でできている。特に警察という特殊な会社は、歪みがひどいと毒島は思う。清濁併せ吞むだけでは割り切れない、空しさを感じるのもわかる。特に公安に長く居続けると―――。


的場には、挨拶をしておくつもりだった。要件については聞かれないとわかっていたが(公安がペラペラ話すような人種ではないことくらい、知っている)、極力、隠れたくなかったのだ。やむを得ないが、同期の監視をするという仕事が楽しいわけではない。的場の居場所を捜査1課で聞いてみると、取調室にいるということだったので、2課の部屋で待機させてもらうことにした。毒島には、1課には居づらい理由がある。幸い、2課には知り合いがいた。だが不幸にもその知り合いは外出中だった。仕方なく、待たせてもらうことにしたのだが、2課全員が出払っている状況で、部外者の自分がいなければならない状況に苦笑した。次の瞬間、椅子を蹴りあげて立ち上がった。署内で銃声がするという前代未聞の事件に巻き込まれる、まさに号令だった。



(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。

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プロローグ:弔いの日





東品川にあるスタジオを出たのは明け方の4時。コーヒーの飲みすぎで胃が痛かったが、それでも寝酒はやめられない。茂木克明は、連日のレコーディングで疲れがたまっていたから、さっさと行きつけのバーに向かうつもりだった。



メンバーと一刻も早く離れたかった。音楽のことで議論になると、耐え難いほど言葉のやり取りをしなくてはならない。しゃべるのが苦手だから音楽を始めたはずが、このザマだ。伝えるってことは本当にむずかしい。



タクシーに乗り込み、運転手に車内を無音にするよう頼むとすぐに目を閉じた。眠れるわけではないが、少しはささくれだった気持ちが安らぐ。音のない世界に安らいでいる自分がおかしかったが、この習慣はプロのアーティストになってからだった。金を得て趣味を棄てた自分を呪うのはこんなことに気づく時である。生きていくっていうのは、何かを得ることではなく、何かを棄てることだとつくづく感じる。



自分にもまだ、両手で持ちきれないほど可能性があった若い頃があった。あの頃は、何も知らなかったが、何も怖くはなかった。信じあえる仲間もいた。自分を使いきってしまった今は、あの頃を振り返るのが苦痛だ。過去をかえることは出来ない。かといって、未来をかえることも出来ないと思い知らされるからだ。


茂木は目を閉じていられなくなり、窓越しからまだ眠っている大崎のビル群をみつめた。ビジネス街は自分の居場所ではないから、見ていて飽きない。かつての仲間は、プロのミュージシャンではなく普通のサラリーマン、主婦に収まっている。彼等と話すと茂木をしきりに羨むが、まったくのお笑い草だ。俺は、お前たちが本当に羨ましい。才能を削って生きていくっていうのは本当に辛いんだぜ。しかも、お前たちのほうが才能があったんだからな……。










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こんにちは。僕です。


東京は久々の晴れ間が広がっていますが、宮城県の方はまだ大雨なんですよね、心配です。

鬼怒川って、ちょくちょく旅行に行くので、よけいに災害のリアルを思い知らされます。

正直、東日本大震災があるまで、天災はどこか非現実的な出来事、ブラウン管(古い?)の映像でしかありませんでしたが、あの日以降、自分に降りかかったらどれだけ大変だろう・・と考えることができるようになりました。行方不明の方々の安否、お祈りいたします。



って、タイトルと全然違う話からスタートしてしまいましたが、

今週からようやく久しぶりに連載小説【蠢く聖水】を復活させました。

といっても、週一連載で、まだ10月第1週までのストックしかありませんけど・・・。

まぁ、のんびり書いていこうと思っております。


ついでに、過去の記事を読み返していたら、

【勝手にジュンペイ!】という連載小説も、第56話で止まっているんですね。

この小説は、【蠢く聖水】より進んでいるというのもありますが、思い入れも強いので、

これを機にこちらも復活させようかなーと思います。


というわけで、しばらく、過去記事ではありますが、復習がてら再アップしたいと思いますので、

しばらくはお付き合いくださいませ。今日から再アップしていきますので、どうぞよろしくです。


ではまた。

疑念をぬぐえないでいると、捜査2課の開け放たれた部屋の角から、視線を感じた。なぜ彼がそこにいるのか。公安部の毒島が―――。






視線を感じた。振り向くと江藤がいた。尊敬する先輩で、かつての上司。毒島は江藤が嗤っているのを、一度も見たことがなかった。それは、彼の妻が失踪してから相棒となったからだ。仕事に情熱を失い、公安のエースだったことなどまるでなかったかのように。

それでも時折「ハム取り紙の江藤」と称賛された、ハエ取り紙さながらの粘着質な操作手法の片鱗が垣間見えることがあった。刑事にとって最も必要なものは情報であり、江藤は、その情報を得るためのデータベースは勿論のこと、緻密なまでの人脈は警視庁屈指ではないかと驚くことが何度もあった。本人に仕事をする気がなくとも、周りがそうさせてくれない。例えて言うならば、パソコンをオフにしていても、あちこちからメールが届くようなものである。必要に迫られてパソコンを開くと、メールチェックせざるを得ないというように、江藤の耳にはあちこちから情報が届くのだった。どうやら、江藤は、行方不明の妻を探しているようで、そのために仕事をしているのではないかと思っていた。

その江藤が自分を見ている。何か頼まれるだろう、と思っていると、案の定だった。

「S県警本部まで行ってくれないか」

「はぁ、いいですけど。何をすればよろしいんですか」

「君の同期がそこにいたな」

(これだからこの人は、敵に回せない…俺みたいな一介の兵隊の情報にまで精通しているのではな…)

「的場ですね」

「彼をマークしてほしい。当面の間、この仕事に専念してほしい」「一応言っておくが、私は今朝から復帰することになった。上の強い意向が働いた」

「そうですか。よほどのことがあるんですね?」

実際、上の意向など江藤には関係ないはずだが。この人の損失は警視庁の損失であり、上層部は何とかして彼を元のワーカホリックに戻そうとしたが、本人がテコでも動かない。やむなく、江藤の気持ちがおさまるまで、待つことにした。江藤は、妻の行方が分かりそうなことのみ動いていたが、今回もその為なのか、あるいは永らく待ち望んでいた雪解けか。








(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。