相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒) -7ページ目

相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。

途中まで送ってくれた執事から教わったシゲキの家に行くまでの道は恐ろしく正確だった。三人は普段、住み慣れた薄木市から離れた経験がなかったが、隣の都田市(とだし)など行く機会などなかったが、そんな三人が迷わずシゲキの自宅に到着できたのは執事の地図によるところが大きい。何度も獣道や林道を抜けて不安になったが、やがて切り開かれたいかにも新興住宅地がみえてきた。


「あいつ、ただ者じゃねーな」


「シゲキがか?」


「まったくお前はノンキなもんだよ」


カッちゃんは首をふり、歩きながらエツコのほうへ向き直った。


「悪いな、エツコ」


「ううん大丈夫だよ。私もヨシエのキーボードを聴いてみたいしね」


親友のエツコにも聴かせたことがないのか。カッちゃんは改めて己がいかに僥幸だったかを知った。いや、そうとは限らない。きっと、スーブスの指さばきは悪魔の所業なのだ。俺は悪魔に魅せられているだけなのかもしれない。



カッちゃんは、自分の耳に絶対的な自信をもっていた。演奏するための才能は努力でカバーできる。だがアレンジやコンポーネントには『耳』が必要だと考えていた彼は、だからこそヨシエのピアノの音に衝撃を受けたのだ。



「こんなすごいのに、なんでピアニストになろうとしないんだ?」


訊かずにはいられなかった。するとヨシエは、美しい長髪をかきあげて、まるで自分は美人だといわんばかりにカッちゃんの目を上目遣いにのぞきこんだ。


「ピアニストなんて大変だもの。ワタクシ、努力が何よりも嫌い。美貌も含めて、今持っているものだけで充分なのよ」


あまりに潔い発言は、カッちゃんに強く響いた。自分は太陽であることを宣言できる人間が目の前に突然現れたときの衝撃。人生観を揺さぶったのだ。



カッちゃんが回想を打ち切ると、エツコとジュンペイはまたぞろ小競り合いしながら自分のはるか前を歩いていた。


「おーいカッちゃん何やってんだ、着いたぜ、」



シゲキの自宅に。













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俺がボーカル?



ボーカルって歌担当ってことだよな?





……。




「ぃいやっほぅー!」



ジュンペイは天に向かって吼えた。カッちゃんやエツコにとって、この反応は予想通りだった。ジュンペイは昔っから、根っからの目立ちたがり屋で単純馬鹿なのだ。お遊戯会で演劇があれば主役ばかりをもぎ取る奴である。しかも、声はよく通る。決してうまいわけではなく美声でもないが、味わいがあり、なぜか印象に残るタイプだとカッちゃんは踏んでいた。



カッちゃんは指折り数えた。まずはひとり。残るはギターとドラムだが、こいつらを勧誘するには、自分では無理だと思っていた。そこで登場するのがエツコなのである。



「エツコ、お前が頼りだ」

「なんでよ?」


「シゲキはな……俺の調査によればエツコの親衛隊だ。お前のいうことなら何でもきくって」

「それってずるくない?やる気ある人をメンバーにしたほうがいいと思うけど」

エツコが異論を唱えると、じっとしていられなくなったジュンペイが会話に入ってきた。

「いいじゃん。エツコが応援したら奴等すぐのぼせ上がるぜ?どこがいいのかわかんねーけどさ」

「あんたに分かってもらわなくていいの!あたし、やだからねっ!!」


傷ついたエツコは鼻を鳴らして踵を返した。エツコは自分を特別扱いされるのを嫌う。ましてや、意中の人間にいなされては黙っていられなかったのだ。何としてでもシゲキをメンバーにしたいカッちゃんはすぐさまフォローする。付き合いの長い分、エツコの性格を熟知しているのだ。分かっていてもついトラブルの種を蒔いてしまうジュンペイと違い、カッちゃんは人をたらすのが実にうまかった(モテる奴は顔だけではない)。


数分後、カッちゃんに諭されジュンペイのもとに二人が戻った。どんな媚薬を嗅がされたのかしらないが、エツコの表情は気味悪いほどにこやかだった。「まっ、それなら説得しにいってもいいわ。今からいくわけ?」


「ああ、善は急げっていうしな」


「ヨシエはどうするの?」


「あいつはいいんだよ。俺がお引き取り願った」

確かにまとまる話もまとまらないだろう。そこでジュンペイははたと、ヨシエがいつの間にかいなくなっていることに気づいた。話を先につけていたのか。なんにせよ、ようやく第2の人生の道が拓けてきた。待ちきれない思いでいっぱいになった。その先にあるのが棘の道(いばらのみち)であることを知らずに―――。














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「バンドやるっていうけど、何から手をつけていいのか…」


ジュンペイが大仰に肩をすくめてみせた。


「ジュンちゃん暇なんだろ?まずはメンバー勧誘だ」


「俺が勧誘すんのかよ!!」


「いや、正確にいうと説得かな。実はアタリはつけてんだ」


カッちゃんはそういうと、リーバイスの尻ポケットから一枚のノート切れ端を出した。丁寧に四つ折してあるメモを二人に見せながら説明を続けた。


「やってたバンドが解散しちゃってから、俺、メンバー探してたんだよ。ギターはこいつだ」


あい変わらず綺麗な字を書くなぁとジュンペイは感心した。そこにははっきりと『ギター:シゲキ』と記されている。だが、ジュンペイはそれが誰のことか分からなかった。エツコも同様のようだ。だが質問を切り出す間もなくカッちゃんは次のメンバー欄に指を指した。


「ドラムはハマちゃんだ」


「あのさ。俺たちの仲間内にハマちゃんとかシゲキとかいたっけ?施設んときにも……」


「ああそれは今から説明すっから」


カッちゃんはそういうとスタスタと玄関に向かっていた。さっき来たばかりだぜ?それとも本館に戻るのか?


「なにやってんだ、いくぞ?」


「あん?どこ行くんだよ?」


「シゲキとハマちゃん家だよ。勧誘しにな」


カッちゃんはなぜか楽しそうだ。ヨシエとのプレイが思いの外良かったのだろうか……なにしろ顔と性格以外はナイスバディだからな。青い体験を知らないジュンペイはついカッちゃんとヨシエのイケないコトを考え下半身が疼いた。だがジュンペイの妄想はカッちゃんの追い打ちにかき消された。


「あ、俺はベースなのは知ってるな。つーわけでボーカルはお前だ、ジュンちゃん」












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重苦しい瞼をひらくと暗闇から一転、まばゆい光とともにヨシエが目に飛び込んできた。



ヨシエはパールホワイトのパーティドレスに身を包んでいた。あの演奏を聴いた後では神々しさすら感じてしまう。カッちゃんは完全に、ヨシエの策略に浸かりこんでしまっていた。ヨシエはそれを手に取るようにして、ゆっくりと話しかけた。


「克明クン。あなたには音楽の才能がある。ずっと見てきたアタシが保証さしあげるわ。アタシがあなたをバックアップする。だからまずは、」


「……まずは?」






















「まずはバンドやろうぜ!!ってことだよ」

カッちゃんは呆気にとられている二人に説明した。


「秋の文化祭に参加するには、応募数が毎年多いから予選会が先にあるらしい。だからまずは予選会に向けて、練習するんだよ」



「えー?なんで俺たちが参加するんだよ」


ジュンペイは口を尖らせた。エツコもつかみかからんばかりの姿勢で同調している。


「私たち、素人なんだよ?カッちゃんだけじゃん」


「まぁ、エツコはマネージャーだからいいんだよ」


「俺は?」


「お前……暇なんだろ?ロック好きなんだから、やれよな」


ジュンペイはカッちゃんにはからきし弱い。この三人には、単なる幼馴染み以上の結束力があることをヨシエは知り抜いていたのだ。のちにエツコが『ニッポンのシャロン・オズボーン』と言われるまでのマネージメント力を持つに至ったのは実はヨシエの手腕によるところが大きい。すべてはヨシエの采配によって、バンド活動が進められていくのだった。


















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誰もが気付かぬうちに 何かを失っている
フッと気付けばあなたはいない 思い出だけを残して
せわしい時の中 言葉を失った人形たちのように
街角に溢れた ノラネコのように
声にならない叫びが聞こえてくる

もしも もう一度あなたに会えるなら
たった一言伝えたい ありがとう ありがとう

時には傷つけあっても あなたを感じていたい
思い出はせめてもの慰め いつまでもあなたはここにいる

もしも もう一度あなたに会えるなら
たった一言伝えたい
もしも もう一度あなたに会えるなら
たった一言伝えたい ありがとう ありがとう

もしも もう一度あなたに会えるなら
たった一言伝えたい
もしも もう一度あなたに会えるなら
たった一言伝えたい ありがとう ありがとう

時には傷つけあっても あなたを感じてたい










ヨシエが鍵盤から指を離してもなお、カッちゃんは意外にも細くしなやかな指から奏でられた旋律に心奪われたまま、動けなかった。声は何の特徴のないトーンだったが、それが却ってピアノの伴奏を引き立て、主従逆転したバラードが訥々(とつとつ)と耳朶から全身までを刺激する。カッちゃんの過去を熟知したうえでのヨシエの選曲であることに気づけないほど、胸に染み渡る演奏だったのだ。









やられた―――。







カッちゃんは、これまでの人生でかつてないほどの衝撃を受けていた、それは、音楽に才能を持ち、また不幸にまみれた者だけが感じずにいられない複雑な感情であった。



母ちゃん。オヤジ。真奈美―――。おぼろ気だった母の顔が笑顔として瞼の裏側に現れる。幼くして死別した家族との思い出は重石で封印してきたのだが、ヨシエの歌と演奏が呼び覚まさせた。




彼は泣いた。家族との思い出に。自分の才能の限界に。














第2章:バンドやろうぜ!!


















「俺たち、秋の文化祭に参加することになったからな」






ジュンペイとエツコの他人事のような顔つきを見てとったカッちゃんは、つけ加えた。「お前もだぜ。ジュンペイ」



「は?」



「エツコはマネージャーだ。頼んだからな」


「は?」



カッちゃんはそれきり、意識を失った。
























意識を失なう一時間前、カッちゃんは、後に「ジャブロー」と呼ばれる別館に連れてこられていた。中に入ると、意外にも防音構造が施されていることが分かった。


「驚いた?ここはね、アタシの練習場所だったのよ」



何の練習場所なのか、聞かなくても答えはカッちゃんの目の前にあった。



黒い光沢を放ったグランドピアノが空間の中央にあり、ヨシエはその前に座した。

「久しぶりだわ」


思わずその憂いを帯びた姿に見とれている自分に気づき、ゾッとする。相手はあのスーブスだぞ?仮にもこれまで女に不自由したことのない俺が、一体どうしちまったんだ?



目を醒まさんと顔をブルブルと振った。その間にヨシエはまさに演奏しようと背筋を伸ばしていた。凜とした空気がはりつめた。静寂が支配する。いや、ヨシエが辺りを支配しているのだ。



カッちゃんはそれきり、ヨシエの気迫に飲まれた。演奏家としての興味をおさえることが出来なかった。







そして、静けさはエモーショナルな音の連なりへと変化していったのだった。















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「さぁ……力を抜いて」


「嫌……嫌ぁぁぁぁぁぁあ……」


「ジタバタすんじゃねぇ!!大人しくヤらせろっつーんだよ!!」


「……せめて、優しくして……」










地元民から通称『白澤御殿』と呼ばれる
広大な屋敷の片隅に、ヨシエ以外何人(なんぴと)も足を踏み入れることが許されない離れがある。そこで交わされた会話で拒んでいたのがまさか男のほうであることを、離れの頭上で旋回する鷹は知る由もなかった。




カッちゃんは、バンドに青春を捧げていた身であったが、ヨシエの謀略によりメンバーも貸しスタジオも奪われていた。無論、本人は白澤財閥の力が働いていることに気づいていない。『金さえあればほとんどのことが解決する』と信じ、実際にこれまでそうしてきた白澤一族にとっては、この程度のことは造作ない。工作は執事の手により詳細かつ巧妙に仕組まれていたが、作戦の骨子は、カッちゃんがヨシエの提案を了承すれば白澤御殿の離れを改装し、カッちゃんのスタジオが出来上がるというわけだった。


これまで彼は『ロックは反骨』と標榜していたが、執事のアメとムチに堪えられず遂に投降した。まさに、Speak of the devil 。ジュンペイたちが見たカッちゃんの姿はつまり、カッちゃんの愛人としての始まりだったのだ。








カッちゃんは、ジュンペイたちの姿を認めると力を振り絞り自分の力で立ち上がった。



「おう、ジュンペイ。まちくたびれたぜ……」


「お前……大丈夫なのか?」


「大丈夫さ……俺は魂まで奪われちゃいねえ。音楽やるためならなんだってやるさ」


「何をヤったんだ……」


カッちゃんはよろけたが、かろうじて踏みとどまった。まるで、ヨシエの力を借りたくないかのように。そして、嗄れた声で無謀極まりない提案をしてきたのだった。



「俺たち、文化祭にバンド出場することになったからな」










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仕方なく、待たせてもらうことにしたのだが、2課全員が出払っている状況で、部外者の自分がいなければならない状況に苦笑した。次の瞬間、椅子を蹴りあげて立ち上がった。署内で銃声がするという前代未聞の事件に巻き込まれる、まさに号令だった。

毒島は銃声のする取調室へと走った。扉をみると、はめ殺しの小さなガラスには明らかな銃痕が残っていた。部屋を覗くと、的場が誰かを抱きかかえていた。毒島はとっさに隣室のガラスを抜き取って、的場がいる部屋に戻った。的場と目が合った。部屋に入る。「よお、久しぶりだな」


「久しぶりとはご挨拶だな。こんな状況で」


「隣からガラスを持ってきてやった。銃痕を隠さないとな」


「お前がやったのか?」


「ならここに来るわけないだろ」


「なんでお前がいる」


「俺だって答えが知りたいよ。とにかく作業に集中しよう」


それから二人は隠ぺいに没頭した。時間にして1分もかかっていない。毒島も勢いでここに飛び込んでしまったが、容疑者にされるのはごめんだった。冷静さを欠いた自分を呪った。天井のダクトを開け、死体を放り込み、とりあえず、何もない状態にまで持ち込めた。


「さて、これからどうするか。この取り調べを知っている人間は誰だ」


「うちの上司。それから、この部屋を使ってるから、総務の人間も知っていると思う」


「わかった。とりあえずお前はここから逃げろ。連絡できる状態になったら、ここに電話してくれ」


「盗聴される心配のない、携帯を手配してくれそうなところはないか」


毒島は、秋葉原にある調達先の連絡先を伝えた。「いいか、メモするなよ。覚えろ。俺の名前を出せば、融通してくれるはずだ」


「わかった。恩に着る」




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「わかった。恩に着る」



毒島はそういうと、あっという間に去った。冴が一番会いたくない人間だったが、会ってしまった以上は仕方なかった。この部屋から外に出る、一番きれいな方法を教えてくれ。開口一番の要求がこれだった。この男はいつでもそうだった。苦い感情が湧き上がってきたが、悠長な空気ではなかった。別れた夫が、人目につかない逃走ルートを教えてくれと言っている尋常ならざる状況に、冴は気圧された。不思議と不正に関わっているとは思わなかった。そういう点で毒島を疑ったことはなかった。


はっとして時計をみた。ぼやぼやしていると、自分にも身の危険が迫ってくる。この場から逃げなければならない。毒島とともに逃げればよかったのに、それができない自分の心情はなんだったのだろうかと、歩を進めながら思った。




(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。

オープニングテーマ曲:YOUTHFUL - 99RadioService















「なんだ。あっという間じゃんか」


「強がりいって。ヨシエが気を利かせて迎えに来てくれたからでしょ」


確かにヨシエのいうとおり、出迎えの車(なんとリンカーン)がなければヨシエの自宅玄関からもさらに五分は歩かされたに違いなかった。ジュンペイの予測をはるかに超えたブルジョアぶりに、ひれ伏しそうになる。主(あるじ)がヨシエだから、なんとか平静を保っていられた。


「そのご当人たちの姿がまだみえねーな」

「お嬢様はただ今お着替えをなさっています」


いかにも執事の見本のような白髪眼鏡の紳士がジュンペイの疑問にうやうやしく応じた。コイツ、本当にヨシエを『お嬢様』って思ってるのか?


ジュンペイは執事に通されたホールを見回した。玄関からパルテノン神殿を思わせる格調ばった吹き抜けが覆い被さるかのように圧倒する。神々しいステンドグラスから目映い光が二人を照らす。エツコの黒髪が天使の輪のように反射していて、ジュンペイは思わず見とれた。だが目が合うのを恐れ、すぐに目を伏せた。床面は二色の大理石を市松模様にあしらっており、汚れたナイキシューズで踏み入れるのがためらわれるほどだ。



モノホンじゃねーか……。



やべえ。緊張で小便に行きたくなってきた……。



だがトイレを案内されてもここに帰ってこれないような気がして、カッちゃんと合流するまで我慢することにした。


そうこうしているとようやく、奥に繋がる内廊下からコツ、コツとハイヒールの音が近づいてきた。廊下が薄暗いため、ヨシエの姿をはっきりと捉えることができない。シルエットは何かを抱えているかのようにみえるのだが……。



まさか。




影がジュンペイたちに近づくにつれ、思わず二度見してしまうような現実が輪郭を伴ってくるのだった。



ジュンペイたちはまさにその『まさか』を刮目(かつもく)した。麗々しいパールホワイトのパーティードレスに身を包んだヨシエが、干からびたカッちゃんを抱きかかえていたのだった。













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「お前さー、ヨシエん家にいったことあんの?」


「うん。何回かね」


「やっぱスゲーのか?」


「何度行ってもビックリするわよ!!敷地が広すぎて、うっかりキョロキョロしてると迷子になるんだから。気を付けてね」



ジュンペイはエツコに説明を受けながらも、実は信じていなかった。いくらなんでも東京ドーム三個分の敷地なんて話の盛りすぎだ。薄木市内に隣接する富士沢市のやや離れた高台にあるヨシエの邸宅は、だらだらとうねる一本しかない私道を登りきった頂にある。かつて呼ばれた時はヨシエの乗るハイヤーで同伴したらしいが今回は招かざれる客人の立場、二人は徒歩である。



カッちゃんは、客人というより生け贄であることを考えれば、辛い道中に文句などあるはずもなかった。カッちゃんがなぜヨシエの策略にはまってしまったのか、ジュンペイは尋ねてみたのだが、彼は哀しげに首をふるだけであった。




「行けば分かるさ」



分かりたくないが、ジュンペイにも責任の一端はあるような気がしたし、それに部活動をやめてからというものの時間をもて余していた。他人事だしそれにエツコと形だけでもダブルデートできるのが密かに嬉しかった。



エツコはそんなジュンペイの気持ちを知ってか知らずか、カッちゃんのダブルデート要請を快諾した。デートといえど、ヨシエの自宅に遊びに行くだけだから気軽にオッケーしたのだろう。お互いの気持ちに差があるのが癪だったが、普段面と向かっては喧嘩ばかりしている間柄だけに、なんとも複雑な気持ちだった。



「しっかしまだ着かないのかよー」


「あんた体力だけは有り余ってるでしょ!!そろそろよ、そろそろ」


「つい十分前も『そろそろ』だって言ったぜ」


「男のくせに細かいわよ。そんなんだとモテないんだからっ」


「俺様が今モテ期なのを知らねーな?」


「……今がピークなんてさびしい人生ねぇ」



年末押し迫った冬休みにも関わらず、澄んだ青空と暖かい陽気が二人の口を軽くしていた。先に到着していたカッちゃんが悶絶していることなど知らないような、真っ白い雲が小高い丘からひょっこり覗いていた。















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