相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒) -6ページ目

相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。


エツコが心配していたのは、ジュンペイがヨシエの援助を受けないのではという点だった。施設出身だからといって、物乞いなんかまっぴらだという自負心がジュンペイには特に強い。学費を出すとか貸すとか単純な話ではジュンペイは決してのってこないだろう。カッちゃんと相談した結果、勉強させて追い込むのが一番だろうという結論に至ったのである。


「家庭教師の月謝はどうする?」


「出せるわけねーし、な。要するに、ジュンちゃんに引け目を感じさせなければいいわけだ」

「なんかいいアイディアがあるのね?」


カッちゃんが含み笑いするときは、自分にとってあまりよい話ではないことが多い。それに加えて、勉強嫌いなジュンペイが素直に勉強するかも不安だった。だからといって、他に妙案を思いつかない。カッちゃんのアイディアとやらを信じてみるしかないようだ。


「大丈夫。ジュンちゃんは嫌いなことをやらないで生きてきただけで、馬鹿じゃない。尻に火がつきさえすればやるはずさ」


月謝問題はあっさり片付いた。本当はプロ家庭教師なのだが、家庭教師に頼み込んで、隠居して暇をもて余している老人を演じてもらった。話し相手くらいに思わせた、とカッちゃんは言った。「人がいいからな、あいつは。『爺ちゃんのために頑張るぜ』ってやる気になってるよ。ジュンちゃんが死んだ息子の生き写しだって泣いてもらったからな」


カッちゃんは悪魔だとエツコは思ったが、実はこのアイディアはヨシエ発案である。スーブスこそがクッパ大魔王なのだが、気づかないエツコは根っからの天然だった。


まさか、カッちゃんとヨシエが裏に手を回し、成績改ざんを仕組んでいたなんて、思いもよらなかった。何しろジュンペイは、これまでの遅れを取り戻すかのように勉強していたのだから。







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第3章:それぞれの春





春の珍事件といえば、校庭への犬乱入と相場が決まっているが、その年の薄木高校全員の関心を集めたのは、まったく違うものだった。


春の学年テストでエツコとカッちゃんの順位が入れ替わったことともうひとつ。ジュンペイが学年100位内に躍り出たことだった。薄木高校では、二年生から特進コースと普通コースにクラス編成がなされる。端的にいえば、エリートと落ちこぼれに分けられる。特進コースはさらに三つに分けられるのだが、本人の努力次第では翌年度のクラス編成で昇級することができる。授業料免除されるのは、特進Ⅰ、そしてスポーツ特待生だけである。スポーツ特待生が特進コースに進むことなど、十年に一度あるかないかの珍事である。



ジュンペイは、ハマちゃんとともにヨシエが雇ったプロ家庭教師たちにみっちりしごかれた。それはまさに地獄といっても良かった。元々普通受験で入学したハマちゃんすら詰め込み勉強で膀胱炎になるのは初めてだった。何しろこれまでの遅れを取り戻すために一日15時間の勉強時間を彼等に強いたのだ。


当然、勉強に免疫のないジュンペイは当初強い拒否反応を示した。

「そこまでできねーよ!!俺はお前らと頭の出来が違うんだ」


もちろん、悪い意味で。不正を嫌うジュンペイの性格を熟知するエツコとカッちゃんは、正攻法で退学から逃れるしかないと踏んだのだ。エツコには反発しても、カッちゃんにはからきし弱いので、このときもカッちゃんがジュンペイを説得した。


「俺は、三人で卒業したいんだよ。俺たちには金がない。だから実力で頑張ってきたんじゃねーか。お前はただの癇癪で自らその道を絶っちまったけど、そんなの許さねーぞ」


ジュンペイは施設時代を思い出した。両親がいるかもしれないというはかない希望を持つことさえ許されなかった三人は、結束した。自分たちの力で生きるため、死にもの狂いで道を切り拓くしかないのだ。



やるしかない。走るだけが取り柄だった俺が生きていくためには、今や苦手な勉強を克服するしかない。生きるための力がずば抜けているジュンペイは、尻に火がつきさえすれば、やり抜く奴なのだ。


こうして、ハマちゃんとジュンペイは、地獄の合宿を乗り切ったのだった。









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細胞の増殖・抑制についての研究を始めたきっかけは、若くして母が癌でこの世を去ったことが原因だった。この世から癌を撲滅させたいという気持ちからだったのが、いつしかその思いよりも、研究結果をいかに世界に知らしめるかということが関心事となっていた。特に、恋人と思っていた恵理子が、自分以外の男とも逢瀬を重ねていたことを知ってからというものの、嫉妬ではなく憎悪が彼の思念を占めるようになった。恵理子を滅ぼしたい。自分の作る細菌兵器によって。




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江藤の専門は国際犯罪である。29歳の時、公安部に所属しながらラングレー(注:当時のCIA本部所在地。現在はマクレーンに所在する)に飛び、CIAへの留学名義で情報交換および人脈構築をはかった。江藤は人たらしの才能を米国でも発揮し、CIAとつながりの深いイスラエル諜報特務庁やイギリス秘密情報部のエージェントたちとも交流することができた。彼らは日本の指定暴力団とコンタクトをとっていることはもちろん、新興宗教の動向についても相当な情報収集を行なっていた。冷戦が終了した90年代は赤字挽回から経済情報に舵取りしていたが、カルト集団の肥大化も無視できなくなっていた。それにもかからわず、オウム事件も9.11事件も阻止することができなかったわけだが、これらの事件を教訓に、CIAは、カルト集団については相当な労力を割いてテロ防止に努めている。江藤も、この恩恵にあずかりながら、これまで仕事を進めていた。そのおかげで、妻が福音の会に所属していることも知りえたのである。


妻の情報について彼は、会社にひた隠しにしてきた。当然、父に対しても。恵理子がどういう理由で福音の会に入会したのか、理由はわからない。だが、彼は妻に対して仕事の話を一切しなかった(できなかった)ので、公安部の人間と結婚することのメリットはなかったはずである。これまでは。しかし、恵理子がこの自分をジョーカーと考えていて、何かに使えると思っているとしたらどうだろう。現に自分は恵理子のことを隠しているではないか。自分の捲いた種は、自分で刈り取らねばならない。恵理子は何かを狙っている。俺にそれを防げるか。「ハム取り紙の江藤」の名に懸けて、阻止してみせる。江藤は今朝の新聞紙を読みながら改めて決意した。そして、デスクの電話をとった。「やあ、久しぶりだね、ザミール」




(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。

「あんな状態じゃ、バンドなんかやるわけないよ。和太鼓すら出来ないのに」

ジュンペイは早くもお手上げらしい。カッちゃんも予想以上の話にどんな顔をすればよいか分からず戸惑っている。エツコたちの落胆を悟ったハマちゃんの弟ケンジは、慌てて四人をとりなした。

「僕、本当はとーちゃんに和太鼓やってもらいたいんだ。お金ならセーカツホゴでなんとかやっていけるんだ」


だけどね。高校に行く学費や和太鼓のお金まではね……。ケンジは、はじめて憂いの表情をのぞかせた。


やっぱり、ハマちゃんも学費がネックなんだわ。エツコは唸った。考え事をするときに髪をかきあげては枝毛を探すのがエツコの癖だった。その仕草が親衛隊から「アルカイック・スタイル」と呼ばれているのを知らないのは当の本人だけだろう。シゲキなどははるか後方の茂みから盗み見るようにしていた。



ジュンペイもハマちゃんも、経済的な問題を抱えている。エツコにとってバンドなどどうでもよかったし、初対面のハマちゃんに対して同情の念はあれど、所詮は他人事以上の気持ちになれなかった。だが、ジュンペイやカッちゃんは、家族同様の関係である。ジュンペイと一緒に高校生活を過ごしたかったし、カッちゃんのたっての願いも叶えてあげたかった。



私にできることはないだろうか?


エツコが思い当たるのはひとつだけだった。



親友であり、所得番付にもランクインするほどの名家であるヨシエの力を借りることである。ヨシエは自分にメリットがあればケチケチするような性格ではない。どうにかして、彼女の協力を得たかった。それにはまず、ジュンペイには内緒でカッちゃんに相談しなければならない。そこまで考えると髪をいじるのをやめた。具体的なアイディアが次々と浮かんできた。










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幼少の頃に父に連れられた夏祭り。それが少年と和太鼓の出会いだった。


日々多忙を極める父との時間は貴重であり、祭りそのものよりも父を独り占めできることが嬉しかった。


何の変てつもない日常を身ぶり手振りで父に説明すると父は頷き先を促した。やがて話すこともなくなった。父は少年と違って必要なことだけを話す人間だった。それでも父は少年に夜店をひとつずつ説明し、その都度欲しいものはないかと尋ねた。裕福な家庭で育った少年は物質に興味がわかなかった。欲しいものは父の歓心である。繰り返し尋ねられるうちに不機嫌になり、父もついに口をきくのをやめてしまった。



それはそれで少年の望むことではなかった。父が何気なく見ていた盆踊りなら気を引ける。その直感から始めた和太鼓だった。いつしか和太鼓そのものにとり憑かれ、まさに心血注ぐようになっていたが父の事業失敗により生活が一変したのだ。













「要するに未練はあるけど、とても和太鼓を続けられる状況にないということね」



特待生のジュンペイこそ大丈夫なのか、心配になった。あとで確認しておこう。エツコは細かいところを気にしないジュンペイの代わりに調べておくつもりだった。


「そういうこと。せっかく来てもらったのに悪いけどね」


この明るさはどこからくるのか、ハマちゃんの弟はあっけらかんとしていた。本人はといえば、拳を握りしめていた。エツコが見ているのに気づくと赤くなって奥に引っ込んでいった。まさにとりつく島がない。








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文字どおりの掘っ立て小屋だった。シゲキの新築家屋を見たあとだけに、インパクトが強い。インターフォンは当然ない。ジュンペイは覚悟を決めたらしく、錆びた鉄板で継ぎ接ぎした扉を叩いた。壊れそうな音が辺りに響き、一同は慌てた。


『はぁい』と声が聞こえたかと思うと、軋む音とともに小さな顔が現れた。「おじさん誰?」


「お、おじさん?」

ジュンペイの顔がゆがむのを見て思わず笑った。小さな子供相手にもむきになるのがジュンペイなのだ。エツコはもう少し二人のやり取りを見学していたかったが、話がこじれてしまうと思って、続きを引き取った。

「あのね、私たち、お兄さんに用事があって来たのよ」


エツコはさっき知ったばかりのハマちゃんの名前を付け足した。幼稚園児くらいの顔立ちをした子は頷くと、扉の奥に振り向いてハマちゃんを呼んでくれた。「とーちゃーん」




マジで?
全員が衝撃を受けた。私なんて男子と付き合ったことすらないのに――。同級生に父親がいるなどまったく想像外だった。だが、それならこの困窮ぶりは納得できる。いやいや、勉強している場合ではないのでは?というか、ハマちゃんが何歳のときの子供だろう?



などと皆がめいめい妄想していると当人がひょこっと現れた。「ぬ?」


カッちゃんの事前情報によれば、ハマちゃんは殆ど口をきかないらしい。必要最低限すら怪しいと聞いていただけに、さすがのジュンペイもどうしたものか悩んでいたが、杞憂に終わった。最初に現れたハマちゃんの子供が真逆のおしゃべりで、ハマちゃんがなぜ無口なのかを詳しく教えてくれた。


「とーちゃんは元々僕みたいにおしゃべりだったんだよ?でもある日を境に口がきけなくなったんだ」


彼らは元々資産家の生まれだったが、父親の事業が失敗して以来、生活が一変。当時生まれたばかりの弟は事情が分からないものの、ハマちゃんは自分に原因があると考えているようだ。


「なんだ、キミはハマちゃんの子供じゃないのね?」


ケンジと名乗った弟は当たり前だと笑った。「『トオル』だから『とーちゃん』なんだよ。それくらいわかるじゃーん」


ハマちゃんは弟を睨んだ。ケンジは舌を出したが一向に気にしていないようだ。そのほうがエツコたちにしても助かるのだが。この勢いで、ハマちゃんがなぜ和太鼓を辞めてしまったのかを聞き出したかったからだ。










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「ねぇ、さっきシゲキくんにどんなことを耳打ちしたの?何をどうしたら気絶なんてさせられるのよ」


「なんでもねぇよ。俺の吐息が耳にふーって当たったんじゃねえかな」


ジュンペイは口笛を吹きながら先をどんどん歩いていく。分かりやすい奴だわとエツコは舌打ちしたが、これ以上の追及はやめた。聞いたところで教えてくれないだろうし、世の中には知らずにいたほうが良いこともあることを、施設にいたころから何度も経験している。ジュンペイとカッちゃんとはその頃からの仲間だったから、肝心なところでは信頼していた。あの耳打ちはきっと私に関係することだが、いざとなったらジュンペイが守ってくれる。エツコはジュンペイの隣に駆け寄ると、両手を天に向け伸びをして、さりげなさを装った。


「分かった。ジュンペイを信じる」


真摯さが伝わってしまったらしく、ジュンペイは顔を赤くした。遠目から見るには可愛いのだが、間近で見せられるとこちらも照れる。振り向くとカッちゃんとシゲキは、どうやらギターについて話しているようだ。


楽器の出来る人が羨ましい。音楽はもっぱら鑑賞だけのエツコは、カッちゃんは羨望の対象だった。カッちゃんに言わせると『お前には頭脳と美貌がある』ということになるのだが、カッちゃんはそのどちらも持っているうえに絶対音感まであるのだ。ジュンペイはただのスポーツバカだったが(笑)


カッちゃんは勝手に、ジュンペイと私を似合いのカップルだと線引きしている節があるのだが、実はエツコのなかでそこまで断定できないところがあった。もちろんジュンペイのことは好きだ。だが、仮に二人が付き合ったとしたら、カッちゃんはどうするのだろう?エツコにとってカッちゃんはジュンペイと同じくらい大切な存在だった。天秤に量ることなどできない。今は三人一緒のままでいたい―――。ここ数年、際どい空気になりかけたことが何度かあったが、そのたびに三人の誰かが問題をうやむやにしていた。



エツコは回想を打ち切り、所在なさげに鼻歌をうたうジュンペイに声をかけた。


「それで、次はどこに行くんだっけ」


「『ハマちゃん』とかいう奴の家なんだけど、愛乙岩田のほうらしいぜ」

ジュンペイの口調には明らかに安堵が含まれていた。『愛乙岩田』とは三人の住む薄木市の外れにある駅で、一言でいえば田舎である。駅から少し行けば猪や猿に遭遇することも珍しくはない。またぞろトレッキングしなきゃいけないのか……エツコはパンプスで来たことを後悔していた。

















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「というわけなんだ。俺たちのバンドに入ってくれよ」


「だから何回もいってるけど、僕はギターといってもまったく趣味嗜好が違うギターなんだよ」


説得役はジュンペイとエツコである。まずはジュンペイがかつてカッちゃんから聞きかじった知識でシゲキを持ち上げた。


「知ってるよ。クラシックギターなんだろ?まったく問題ない、むしろ大歓迎さ。昔ランディ・ローズって伝説のギタリストがいたんだけど、彼もクラシックギターに傾倒していたんだぜ?」


「へぇ~そんな人がいるんだ?その人どうしたの?」


あっ、ばか……エツコ……。


「……飛行機事故で死んだ」


「…………」


「まっレジェンドは死してもなお語られてるんだ。クラシックギターってとても繊細な楽器だからな。エレキにも活かせるはずさ」


慌ててカッちゃんがフォローする。ちくしょう、いざとなったら色仕掛けさせてもメンバー入りさせなきゃ。ジュンペイに目配せすると、かすかに頷いた。作戦開始だ。



「なぁ、シゲキ。ちょっと耳を貸してくれ」


ジュンペイはそういうと、まだ会って間もない同級生を呼び捨てにし、耳打ちした。

「このバンド、エツコがマネージャーなんだ。俺たちが幼馴染みなのは、親衛隊なんだから知ってるよな」

「……うん」


「エツコに格好良いプレイを見せるチャンスだぜ?あいつはギターが大好きなんだ。メロメロになるのは間違いねえ」


「……そんなの無理だよ」


「それじゃあこうしよう。メンバーになってくれたら、秘密の覗き見♪ピーピング・スポットを教えてやるよ」


「な、なにが見えるのぉ?」


「あいつの素っ裸さ」


それを聞いたシゲキは、この日二度目の卒倒をした。この極秘会談の内容がエツコに知れたら、ジュンペイが卒倒させられるだろうが。












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佐藤家は最近引っ越してきたのだろう。二階建ての一軒家は、まだ新築の香りを残していた。インターフォンを押すと心地よい弾力が指にかえってきた。


「どちらさま?」


インターフォンの隣には『セールスお断り』と注意札が貼られているが、貼りたくなる理由が分かるようなか細い女性の声が聞こえてきた。カッちゃんは、恐らく母親だろうと見当をつけていると、ジュンペイはそんなことはお構い無しにシゲキを訪ねてきたことを告げた。女性の声から戸惑いが感じられたが、ジュンペイには関係ない。「いるんですか、いないんですか?」


「……あなたはシゲキとどういうご関係?」

ジュンペイは、ニヤリとして答えた。「もちろん友達です」



やっぱり、こいつを連れてきて正解だった。人見知りするカッちゃんは安堵した。




ドアからは声とさほど変わらない、細身の中年女性が出てきた。「シゲキ、知らないって言うんですけど」

「まぁ彼は内向的ですからね。照れてるんですよ」


完全にジュンペイのペースに飲まれたシゲキの母親は、ジュンペイが玄関をあがり二階に向かう様をぼーっと見つめていた。カッちゃんとエツコも慌ててジュンペイの後についていく。母は、我に返りお茶請けを準備するために台所にかけていった。「大変だわ……シゲキにお友達なんて……」




階上では騒ぎを聞きつけたシゲキがドアからジュンペイたちの姿を覗き見ていた。ジュンペイとエツコは、ここではじめてシゲキをみる。


シゲキは長髪でスリムな男だった。こう書けばいかにもロッカーな容姿にみえるのだが、すべてにおいて何かが違った。ロン毛だが油っぽさがあるし、細身もなんだか栄養失調みたいだ。ロックよりフォークが似合うんじゃないか。ジュンペイがそう思っていると、エツコをみとめたシゲキが予想外の反応を示した。彼は目をとろんとさせたかと思えば突如白眼を剥いて卒倒したのだった。







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はっとして時計をみた。ぼやぼやしていると、自分にも身の危険が迫ってくる。この場から逃げなければならない。毒島とともに逃げればよかったのに、それができない自分の心情はなんだったのだろうかと、歩を進めながら思った。



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福音の会は、首都圏郊外にR&Dセンターを保有していた。地場の土建会社がバブル当時に建設した保養所を、安く買いたたいた。富士山が眺望でき、立地も申し分のない物件だが、何より万全のセキュリティを施すことのできる施設だということだった。万一検問されたとしても抜けられる獣道があり、前のオーナーはどういうつもりだったのか地下シェルターまで作っていた。宗教法人がR&Dセンターを保有するのは表向き、信者が販売する無農薬野菜の研究、という体裁をとっていたが、その実態は、綿貫博一がセンター長となって推進する極秘プロジェクトの実験所に他ならなかった。


「ゴモラソドム細胞」の生成を目的としたこのプロジェクトには、福音の会のトップ、司勇(つかさいさむ)教祖の肝いりだった。そこには当然、江藤恵理子の進言があったのは言うまでもないが、この頃から既に、綿貫と恵理子とのパワーバランスは微妙なものとなっていた。R&Dセンターにこもり、研究に没頭するようになった綿貫は、トップである司と直接やり取りをするようになった。梯子を外された格好の恵理子だったが、元来学者肌である綿貫は目の前の仕事が一番、となっていたのだった。


細胞の増殖・抑制についての研究を始めたきっかけは、若くして母が癌でこの世を去ったことが原因だった。この世から癌を撲滅させたいという気持ちからだったのが、いつしかその思いよりも、研究結果をいかに世界に知らしめるかということが関心事となっていた。特に、恋人と思っていた恵理子が、自分以外の男とも逢瀬を重ねていたことを知ってからというものの、嫉妬ではなく憎悪が彼の思念を占めるようになった。恵理子を滅ぼしたい。自分の作る細菌兵器によって。


(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。



・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。