(前回はこちらから)
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的場は、マジックミラー越しに見える大友の相手を見ることができたが、一向に記憶がよみがえらないことに苛立ちを覚えた。いったい、こいつは誰なんだ?
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秋の気配を感じることの多くなった時期のはざま、その日はやけに蒸し暑かった。S県S市所轄の宮本町交番に勤務する新米警官である間将(はざままさる)は、前夜から暑さで寝付けず、翌日の勤務でも生あくびを繰り返していた。先輩である主任、山口に見咎められないよう必死にかみ殺していたが、それも限界となり、立番で直立不動していることが辛くなってきていた。警らに出かけることができれば多少気も紛れようものだが、この地域は大企業の工場がいくつかある以外、閑散とした地域で、眠気をしのげるような事件など期待できない。むろん、警察官として、事件が起こることなど期待してはならないのだが、今日の睡眠不足は、不遜を正当化してしまいそうになるほどの気分だったのだ。しかしその雑念は、その後ちょうど3分後、粉々に吹き飛ぶこととなる。
「自首する!逮捕してくれ」
男が突如、飛びこんできた。勢いあまって扉にぶつかりそうになるのを、間は反射的に両手で押さえた。やせぎすなその男は、衝撃で壊死してしまいそうなほど痛かったらしく、胸を押えうずくまっていた。
「落ちつけ。あんたが犯罪を犯したっていうのか?」
間は、勤めて冷静に質問したつもりだった。本来なら一度交番内に案内し聴取すべきだったが、経験不足もあってその発想はなかった。ガラスドア越しから様子を見ていた山口が見かねて外に出た。
「まず、中に入ってもらえ。話はそこからだ」
すると男は間髪入れずに言い放った。
「悪いが俺は、的場英二刑事にだけしか話さない。逮捕してもらいたいが、調書は彼に作ってもらいたいんだ」
山口が話の意図を理解するのに数秒を要した。
「あんた、的場さんを知ってるっていうのか?」
「ああそうだ。俺は彼と古い友人だ。彼にしか話したくないんだ」
そう言った後、男は意識を失った。
(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
以下閲覧注意です。
・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?
・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。
・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。
・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。
・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。
・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。
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