(前回はこちらから)
「あんた、的場さんを知ってるっていうのか?」
「ああそうだ。俺は彼と古い友人だ。彼にしか話したくないんだ」
そう言った後、男は意識を失った。
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的場は、 何度か顔を合わせたことのある警部補の大石がマジックミラー越しに認めた。ベテランといってもいい年齢である大石が苦り切った表情を隠そうともしていないのが見て取れた。それはそうだろう。取調室の隣室にいる上司、田口から聞いたところによれば、大石の前にいる民間人は、世迷い言をほざいているとしか思えない。しかし、彼が俺の知っている「綿貫博一」であったとしたら。
「俺、中に入りますか」
「そのために呼んだんだろうが」
田口は大きな腹をなでつけ、隣室を後にした。要するに、面倒な仕事を任せたくないので、どうでもよい仕事を与えることによって、ありあまった時間を余計な詮索などをされずにすむということだ。綿貫は昔から口下手だったが、相変わらず真実を伝える能力に欠けているらしい。いくら周囲がいかにも変人に違いない風体をまとった男を胡乱な眼で見ようとも、それを的場にとがめる気はなかった。実際、「日本が滅亡する」といった通報は日本中の警察が受けている類のものだ。警察としては、一応話だけは聞いておかなければならないが、殆どの情報においてはまともに耳を貸そうともしないのが現実だ。上司の田口はそんな場をあてがったつもりだったのだろう。実際、的場も、綿貫の顔をみてもその思いは変わらなかった。
確か綿貫は、高校時代の同級生だった。さして仲が良かったわけではなく、高校生活のなかで会話を交わしたのは数えるだけだったかもしれない。綿貫はいわゆる優等生、対する的場はやんちゃなキャラクターだった。真面目一徹だった綿貫は、成績という一点で校内で目立っていたから、卒業後の進路も風の噂で、帝都大学第1類に現役合格し、その後は薬学を専門として勉学にいそしんでいるらしいと聞いた。それも遠い昔のことで、田舎に足を向けなくなった今では、追跡情報など入るはずもなかった。
ただ、7年前の冬、銀座で旧友にばったり出くわしお互いの近況を報告しあったとき、綿貫についての話も出たことを想い出したのだ。確か、奴は製薬会社に就職したのではなかったか。それならば、話の出所としては、決しておかしいものではない。
それにしても、だ。
荒唐無稽すぎる話だった。はなから誰も取り合わないのも分かる気がする。ここはひとつ、同級生だったよしみで、俺がさとす役割を引き受けてやろう。的場は、綿貫のいる取調室に入っていった。
綿貫は肩をびくりとさせたと同時に振りかえった。一瞬にして安堵の表情を浮かべる。まるで神様を見つけたときのようじゃないか。的場は苦笑しつつ、綿貫の目の前に手を差し出した。
「よお、こんなところで会うとはな」
(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
以下閲覧注意です。
・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?
・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。
・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。
・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。
・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。
・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。