新連載小説【蠢く聖水】1 | 相武万太郎オフィシャルブログ「六転び七転び八転びROCK。」(音楽、小説、酒)

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ベッキーがテレビに出てるとチャンネルを変えてしまう男が、好きな音楽や小説を語ったり書いたりらじばんだりしています。音楽は洋楽ロックメインだったが最近はハロプロ大好きです。特にANGERME。

プロローグはこちらから






【蠢く聖水】




1.逮捕



何杯飲んでも、咽の渇きは癒えることがなかった。


焼酎のせいだろうか。
常に金欠に喘ぐ身としては、安い乙類焼酎が孤独の唯一の友だったが、
奴は飲んでいる時には寡黙であり、翌朝になってから自己主張をはじめる。
だが、毎日となればある程度は慣れる。
どのみち、仕事柄、不規則な生活なのだ。二日酔いは人生のスパイスにすぎない。

明日の夕方になれば、またぞろ飲みたくなるというのが、堕落した人間の性だ。

そう、俺にぴったりじゃないか。





的場英二は、S県S市市街地にぽつんとある、自宅アパートで横たわっていた。職場であるS県警刑事局までは徒歩10分ということ以外に好条件はない、何とも辺鄙な場所にある。職場とアパートの往復の日々に不満があるわけではない。刺激さえなければ余計なことを考えることもない。かえって有難いというものだ。

寝酒をしなければ眠れないが、寝酒は眠りを絶ちきる。それでも酒を止められなくなったのはあの日からだというのは自分でもわかっていた。的場本人を目の前にして税金泥棒とまで公言する者もいた、あの事件からだった。二日酔いの頭は自然と考えたくない思念をとめどなく浮かび上がらせる。


俺は事件の担当者だっただけでなく、当事者でもあったのだ。事件そのものは大したことではなかった、はずだった。

非番中偶然万引きを見かけた。見てしまった以上、生活安全課に引き渡すまでのことはしなければならない。自宅近くのスーパーの家電売場から小走りに少年に近付いた。

少年は、茶色い長髪をなびかせ品物を小脇に抱えたまま階下に降りようとしている。その店は各階会計であることをはっきりとうたっている。うっかり別フロアに移動してしまったという言い訳は、この家電売場では通用しない。万引き防止の警報器が出入口に設置されている。警報が鳴らないということは、商品に取り付けられた防犯タグを取る等細工しなければならない。少年の持つiPodの箱にはタグがつけられたままであることを的場は見てとった。

「おい君」


少年は逃走した。捕まえられる自信のある距離まで詰めていたつもりだった。だが、少年は逃走ルートを確保していた。トイレに駆け込み、窓から飛び降りた。少年は、あの世までの逃走をすることは規定路線だったのではないかと今でも思うことがある。五階建てのビルからプールに飛び込むように跳躍したのだから、狂気の沙汰だ。


俺に過失はない。少年がS県警幹部のご子息様であることを知らなかったこと以外は。



















(つづく)
※応援コメント、どうぞよろしくお願い申し上げます。
※以下より、登場人物メモです。ネタバレのおそれがあるため、
 以下閲覧注意です。





・的場英二:
S県警刑事局捜査1課所属。32歳。やせ形、筋肉質。伸長189センチ、体重78キロ。切れ目で高身長で一見もてそうな容姿をもつも、近寄りがたい空気を醸し出しており、友人も少ない。独身。ストイックで、禁酒・禁煙をしている。毎日8キロのジョギングが習慣。恋人は何年もいなかったが、事件を通じて恋に落ちる?

・江藤光太郎:
警視庁公安部所属。55歳。中肉中背。172センチ、体重75キロ。薄毛。妻恵理子は行方不明となり、失踪宣告した。娘の恵だけが生きがいだが、親子仲は悪い。粘着質のように仕事を進めることからハエ取り紙、公安部の略称「ハム」とあわせて「ハム取り紙の江藤」の異名をもつ。妻失踪後、仕事の情熱を失っていたが、今回の「福音の会」事件で妻が信者であったことを知り、情熱を燃やす。しかし、事件に配偶者が関わっている可能性があることから担当からはずされる(忌避)。それでも、独自に捜査を進めていたところ、的場と出会う。

・江藤恵
光太郎の娘。25歳。伸長162センチ、体重51キロ。父とは微妙な関係だが、父を嫌いなわけではない。目鼻立ちがくっきりしたかわいらしいタイプ。夜遊び・外泊を繰り返していたが、的場と知り合ってからは、真面目になる。母が失踪したことで、愛情に飢えている。自分のせいで失踪したのかと思いこんでいる。

・毒島寛
警視庁公安部所属。197センチ、体重87キロ。巨大な体躯。江藤とコンビを組んでいたが、江藤が担当を外されたことで、別の人間(中本重徳)と組む。しかし、江藤に同情する彼は、江藤から度々頼まれごとも、快く引き受けている。温厚で気さくな性格。

・杉本冴
S県警刑事局捜査1課所属。30歳、バツイチ。172センチ、54キロ。的場の仕事上の相棒。つっけんどんな対応しかしないのは、古傷が癒えていないからである。的場のことを気になりつつも、必死に一線をひく。女性と子供には優しい。


・綿貫博一
的場の同級生。眼鏡をかけており、ポッチャリ型。168センチ72キロ。おっとりした性格と信念を貫く強い面を併せ持つ。福音の会にハニートラップを仕掛けられた末、研究者としてからめとられることに。ゴモラソドムの開発者。研究者としてのエゴが人間としての良識を上回り、ゴモラソドムを開発してしまうも、良心に苦しみゴモラソドム消滅を図ろうとして組織に殺される。