頭で考えるより先に口が出た。
ものの片付けが嫌いな私。なるべくその都度元の位置に戻すようにしているが、同居している彼にはその気がない。
彼の考える快適性と私の考えるそれが合わないのが癪に障る。機嫌の悪いときに限ってリモコンがあるべき場所にないから、喧嘩の原因になる。
今日は逆に、種々雑多が散乱していたのだった。果たして売り言葉に買い言葉となり、狭いアパートは罵詈雑言の飛び交う戦場となった。
言葉の戦争に負けるのはいつも彼だ。戦況悪くなったとみるや、無言で外履きをつっかけるとアパートを出ていく。そこでようやく私はひと息をつくのだ。やかんに火をかけ、自分の熱を冷ます。
30分もしないうちに、彼の足音が聞こえてくると、慌てて緩んでいた顔を元の位置に戻し、ドアに背中を向けた。
「ただいま、っと。ああ、やっぱり寒くなってきたわぁ。中がぬくい」
彼はそういうと、台所に足を向けた。ここは我慢のしどころで、私は無言を貫く。お互いに、演技の時間帯なのだ。
ふわっとした湯気を頬に感じたら、喧嘩終了の合図。私の目の前には、淹れたてのコーヒーと、朝の出勤時に立ち寄ったコンビニで見かけたどら焼きが置かれていた。
「食べる?」
「…ん、ありがと」
ぎこちなさそうに頬張った。ずずっ。コーヒーもちょうどよい加減。やっぱり疲れたときには甘いものとカフェインに限る。
彼は、喧嘩したら必ずこの手で私を懐柔してくる。私もそれで手をうつ。我が家の平穏はどら焼きで保たれているということだ。
だが、私は彼に隠している秘密がある。
それは、最近ではどら焼きが食べたくなったとき、喧嘩を仕掛けるようになったことだ。まぁ、ひょっとしたら気づかれてるかもしれないが。んふふ。
えみさん、どら焼きありがとうございますた
