あれ?私なにしてたんだろ。
気がついたときにいた場所は浅草寺の雷門前。これまでに一度も訪れた記憶がない場所だ。
それにしても、と考えてみる。観光客が群がっている群集のかたすみに、私はなぜいるのか?それまではどこにいたのか?
まったく思い出せない。考えても真っさらな空白のみが私を支配する。
しかも夏らしい灼熱が容赦なく照らしているのに、私の服装といえば春らしい七分袖のシャツにマーメイドのスカート。周りから完全に浮いている。
じっとりと浮き上がってくる全身の汗は、皆目見当つかないことの恐怖からだった。
焦ってあたりを見渡すと、視界の端に見覚えのある顔が目についた。私の友人Sだ。思わず声をあげた。
Sは不思議そうな顔つきだったがすぐに破顔した。「なーにやってるの?Mちゃん。ていうか久しぶりだね~」
「え?うん」ひとまず話を合わせる。
「ていうか、偶然!旅行中にこんな大都会でばったりなんて
「そういえば…前の旅行中、Mちゃんいなくなったよね、どうしたの?」
…何かパズルの断片らしきものが脳裏に引っかかった気がする。
「まっいいか。てか暑くないの?」
暑いどころか寒気が止まらない。理由なき記憶喪失の手がかりが、手に届きそうで届かないもどかしさに私は発狂寸前だった。
「とりあえず、せっかくの再会、記念撮影といきましょうよ!はい、チーズ――」
その瞬間思い出した。Sちゃんにシャッターを押された瞬間、私はカメラに魂を抜かれたのだ…
Sちゃんはそうともしらず、ゴールデンウイーク中の旅行以来ついさっきまで、シャッターを押さなかったに違いない。
浅草寺を映した瞬間、私は現実世界に無事戻れたはずなのに、たった今、再びカメラに吸い取られてしまった。
私はカメラの中で、春から念じていた想いに、ふたたびとらわれた。
早く、シャッターチャンスを。