実に奇妙な現場だったと、定年退職間際の野沢清は同僚に述懐した。
捜査一課一筋の野沢が、刑事稼業でもっとも寒々しい事件を問われると、
間違いなく【黒い薔薇事件】をあげる。
現場は都内某所のアパート。築年数は相当経過しており、昨年ついに解体され、高層マンションに生まれ変わったらしいが、
その跡地だからか怪事件があとを絶たない。
敷地内での小動物の集合死体や、失踪する住人、極めつけは半年間で三度の飛び降り自殺。
格安で分譲するも、その手の事実は契約にあたって重要事項説明義務があり、
誰しも尻込みしてしまう。
【黒い薔薇事件】自体は10年前の出来事であるが、後追い事件があるために、風化することなく生き続けている。
実は野沢は担当者ではなかった。
だからこそ、定年まで勤め上げることができたのだとうそぶく。
いや、実際のところ、あながち冗談でもないのだった。
担当者だった神奈川県警の矢吹真一は、30才という若さでこの世を去ってしまったのだから。
(第2話につづく)