市川兄弟といえば、昔から近所で評判の双子だった。
出来のよい兄との競争に負けつづけた弟は、屈折した想いを暴力に変え、
地域最大の暴走族総長にのし上がった。
兄は順風満帆に進学し、警視庁のキャリア官僚。
弟の総長引退によってしばらく二人の競争はなかったが、
康雄の中では絶えずくすぶっていた。
負けなくない思いだけで禁煙をはじめたものの、
煙草を嫌いになれないだけに、
禁煙開始早々から苛々していた。
実家に帰る前に古本屋に立ち寄り、禁煙に関する本を買いあさった。
読んでみたものの、ニコチンの欲求がおさまらない。
幸い、実家では健雄と康雄以外の家族は喫煙者ではなかったが、
康雄は早くも軽々しく禁煙宣言したことを後悔していた。
ぶちのめしてやれば良かった。
陰でこっそり吸うということだけは、できない。
二人の競争は、とりもなおさず自分との闘いでもある。
30年もの間、虐げられてきた思いを一新するには、
これくらいつらいほうが爽快かもしれないと思ってこらえた。
健雄にしろ、何がきっかけか分からないが、
康雄以上に吸っていたのだから、そのつらさは尋常ではないはずだった。
つらいからこそ、
健雄は康雄にけしかけてきたのだ。
逆にいうと、今日健雄は康雄の帰省を待ち伏せしていたのかもしれない。
思いにふけることで、禁煙初日は無事に終えることができたのだった。
第4話につづく