その日から、わたしたちの秘密のおつきあいが始まった。


先輩と初めてキスをしたとき、わたしは自分が先輩をどれだけ好きだったかに気付いた。

無意識では、ずっと求め続けていた人。

距離が縮まったのはとてもうれしくて幸せだったけど、このつきあいは、1つ条件があった。


本命にはなれないということ。


それはしょうがないことだった。


でも、それはわたしにとって恐怖に近いものがあった。

大好きでしょうがない人に想いは伝わっているのに、お互い好きな気持ちがあるのに、自分は一生、一緒にはなれないということ。

怖かった。


キスの日から、わたしの心の中は先輩で満たされてしまい、彼のことはもう、考えられなくなってしまった。応えてもらえなくてもいいから、この人との時間を大切にしたいと、強く想うようになった。その日から、すぐに当時つきあっていた彼との”別れ”を考えるようになった。

「ついに」


と先輩が言ったのは、二つくらい理由があったのだと思う。


1つは、ここ最近急激に距離が近くなり、お互い意識下ではその先に行きたいという思いが少なからずあったということ。


もう1つは、わたしたちが周囲からは、デキているとされていたこと。

女遊びが激しい先輩のすぐ近くで仕事をしていて、しかも一緒に仕事を始めてからとても仲がよかったから、だいぶ前からそういう関係になっているだろうと誰もが思っていたようだった。


でも、わたしたちにそういうことは一切なかった。

このときまでは。


だから、先輩がぼそりと言ったその言葉に、わたしは思わず笑ってしまった。

くすぐったい言葉だった。


初めてした先輩とのキスは、今でも思い出すとドキドキする。

大きい背中に腕を回して、体を預けたあのとき。


あの日から、わたしの人生は大きく変わっていった。