(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 22
”私が罪を背負いさえすれば、一切は収まる。たとえ無実の罪の問われようと、戸田先生のためなら、学会のためなら、それでよいではないか・・・”
「先生!・・・」
伸一は、思わず叫んでいた。
罪を一身に被ることを決めた山本伸一は、翌日、容疑はすべて認め、供述することを、主任検事に伝えた。
主任検事は、急に相好を崩した。
「それでこそ、君も、最高責任者としての責任を、果たすことになるのではないかね」
伸一は、自らに言い聞かせた。
”これで、戸田先生をお守りすることができるのだ。学会のも、大東商工にも、迷惑をかけなくてすむ。
それに、もう、同志にこれ以上犠牲者を出さなくてすむ。不本意ではあるが、これでよいのだ”
伸一の心から、不安と恐れは去り、安堵と諦観につつまれていった。
しかし、その奥底には、沈痛な念が潜んでいた。それは、次第に、深い、やるせなさとなって、彼の心を苛んでいったのである。
伸一は、この七月十一日から、全く食欲を失った。それは、獄窓の暑熱のせいばかりではなかった。
沈痛な悲哀が、心に重く疲労となってのしかかり、彼の活力を奪ったのである。
この七月十二日の夜、東京・蔵前の国技館は、雨のなか詰めかけた、相撲客ならぬ人の波で騒然としていた。
場外にも多くの人があふれ、参加者は四万人に近かった。
理事長・小西武雄、室長・山本伸一の不当逮捕を糾弾し、大阪地方検察庁に猛省を促すとともに、即時釈放を求める抗議集会が、東京大会として、急遽、開催されたのである。