(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 21
”厳しい追及を受けた同志がいるのに、選挙の最高責任者の自分が、安閑としていてよいのだろうか。
自分こそ、最も苦しむべきではないか・・・”
”いや、私が嘘の供述をしなければ、大東商工も、学会本部も、家宅捜索をするという。
自分が面倒をみてもらっている会社に迷惑をかけることは、なんとしても避けなくてはならない。
また、学会本部が捜索されれば、どうなるだろうか。会員の苦しみ、・・・。いや、戸田先生にも、どれほどのご迷惑をおかけすることになるか。
そして、戸田先生が、もし逮捕されたら・・・”
伸一の脳裏に、戸田城聖の姿が、まざまざと浮かんだ。
”先生は、お体を壊されている。夕張問題、そして、理事長と私の逮捕で辛労が重なり、憔悴され切っているにちがいない。
それで逮捕されたら、先生のお体は・・・。命を縮めることは間違いない。あるいは、獄中で・・・。
あってはならない。牧口先生に続いて、戸田先生を獄死させるようなことが、あってはならない。
戸田先生を、逮捕などさせてなるものか。絶対に逮捕させてはならない!”
彼の心は、赤々と燃えた。
”戸田先生あっての私の人生である。いかなることがあっても、私は、先生をお守りするのだ!
では、検事の言うままに、真実を捨てて嘘をつくのか。自らの手で、愛する学会を汚すことになりはしないか・・・”
伸一の心は激しく揺れ動き、深夜の独房で、彼の苦悶は続いた。髪の毛をかきむしり、独房の壁に何度も頭をぶつけた。
苦悩は深く、夜通し彼を苛んだ。呻吟の果てに、伸一の心は決まった。