(『人間革命』第11巻より編集)
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〈大阪〉 5
伸一は、飛行機の席で、思わず、「よし!」と叫び、『人間革命』(戸田城聖著の)を閉じて、ぽんと叩いた。
”仏法を行ずる者に、難が降りかかることは、何も、今に始まったことではない。日蓮大聖人の御一生は、もちろんのことだが、
牧口先生、戸田先生の戦時中の法難も、そうではないか。
今また、新しい難が学会を襲うとしている。それは、学会が日蓮大聖人の御遺命のままに、仏法を行じている偉大なる証明ではないか!”
伸一は、戸田から聞かされた学会の受難に思いをめぐらした。
戸田は、普段は自分の獄中生活を、面白おかしく語って聞かせることが多かったが、伸一と二人きりで対し、あの大弾圧について語る時、彼の表情は厳しかった。
目は憤怒に燃えていった。一言一言が、烈火のごとき怒りをはらんでいた。
時には語気は激しくなり、また、沈痛な声となり、メガネの奥が、涙でキラリと光ることもあった。
伸一の胸には、六月初旬のある夜、戸田が、万感の思いを吐露するかのように語った指導の数々が、鮮烈に蘇ってきた。
その日、伸一は、夕張の炭労対策の指示を仰ぎに、戸田の自宅を訪れたのである。
戸田は、炭労への対応の基本的な考え方を、簡潔に述べると、戦時中の大弾圧を振り返りながら、広宣流布の道が、権力との壮絶な戦いであることを語っていった。
それは、まさに伸一の身に、この日が訪れることを予見し、最愛の弟子に、生涯にわたる権力との闘争への決起を促すかのような、入魂の指導となっていった。
「伸一君、権力というのは、一切をのみ込んでしまう津波のようなものだ。生半可な人間の信念など、ひとたまりもない。
死を覚悟しなければ、立ち向かうことなど、できないよ」