(『人間革命』第11巻より編集)
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〈夕張〉 5
今にして思えば、この昭和三十二年六月三十日という日は、創価学会にとって、まことに記念すべき日であったといわなければならない。
前日の二十九日には、戸田城聖が、「妙悟空」のペンネームで著した小説『人間革命』(『人間革命』は二つある、戸田城聖著のものと、池田大作著のもの)が発売になっていた。
発行の日は、七月三日となっている。戸田が十二年前の昭和二十年に、出獄した日である。
この小説は、彼の信仰生活を骨子とし、戦時中の苦闘を浮き彫りにしていた。
時の軍部政府の弾圧によって獄に繋がれた時の、すさまじいばかりの信仰体験は、彼自身を蘇生させたばかりでなく、七百年来の広宣流布の火を、燎原の火として燃え盛らせたのである。
そして、この三十日に、大阪府警警察本部は、刑事二人を上京させていた。理事長・小西武雄と、青年部の室長・山本伸一の両名を逮捕しようと決断したのである。
小西は東京にいたが、山本伸一は遠く北海道にいた。
伸一の留守宅から本部に連絡が入り、直ちに札幌の旅館に連絡があったが、伸一は、この時、夕張に出かけていた。
翌日の札幌大会の準備で騒然としているなかに、北海道警察本部の刑事が、札幌の旅館にやって来た。
不在の伸一に代わって、関久男が応対した。
「大阪府家に出頭せよと言うのですね。わかりました。しかし、今はダメですよ。一両日、待ってください」
「それは困ります。すぐ大阪に発ってもらわないと・・・。
逮捕状も取ろうと思えば、すぐに出るんですよ」
刑事の言葉に、関は厳しい口調になった。
・・・。 そして、やっと了解を取った。