(『人間革命』第11巻より編集)
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〈転機〉 16
徳山市では、各支部の派遣員は、思わぬ苦労をなめた。ある旅館は、学会員を嫌い、派遣員は締め出された。
いくら辛抱強く活動しても、成果はあがらない。
それが、伸一が来てからは、万事、がらりと変わってしまった。
会合は明るく弾み、質疑応答も活気にあふれ、何よりも、伸一の話に未入会の人たちは納得するのである。
あまりの不思議さに、派遣員の一人は、勇気を出して伸一に質問した。
「室長、私たちの座談会や指導会は、いくら一生懸命に話しても、なかなかいい雰囲気になりません。
それが室長が出席されると、たちまち、がらりと変わって、みんな元気になり、明るくなるのは、どうしてでしょう?」
伸一は、笑いながら穏やかに答えた。
「それは、使命と責任とを、いかに感じているか、題目を唱えてその場に臨んでいるか、どうかにあるんです。
つまり、指導者としての活力が問題で、その活力が、みんなに波動となって伝播するんです。
”山口の地で、必ず広宣流布の歴史を刻んでみせる。生涯、もう二度と、この地には来られないかもしれない”と思った時、その瞬間に、活力が湧かないはずはないでしょう」
伸一は、宇部市にも赴いた。
大規模な宇部炭田のあるところで、炭田は海底へと広がっていた。石炭の基として、鉱工業の盛んな都市であった。
十支部からなる派遣員は、見知らぬ土地で苦戦に陥り、一日中、足にマメをつくって歩いても、なんの成果もない日もあった。
彼らは、街の見晴らし台から宇部市を見渡しながらこの街のなかで、妙法に耳を傾ける人がないと知って、長嘆息するのであった。