(『人間革命』第10巻より編集)
144
〈展望〉 10
戸田に先を越されて、聞くよりも先に言われてしまったことに、伸一は、瞬間、驚いた。
「私も、帰りの飛行機のなかで、ふと、そのことに気づいたんですが、今の私には、わかりません。
それで先生に、ぜひ、お聞きしたいと、昨日から思っておりました」
「ほう、そうか、責任感が同じなら、考えることも同じだな」
戸田は、わが意を得たと言わんばかりに目を細めて、さも愉快そうに笑いだした。
伸一は、ここで、あの「雲海の着想」の要点を語った。
ー 広宣流布をめざす創価学会の活動は、日蓮大聖人の仏法を根底として、平和・文化・教育など、現実社会に展開されている、あらゆる分野に及んでいく。
立正安国の戦いは、現実社会とのかかわり抜きにはあり得ない。
戸田先生の示された構想を実現するには、政治の分野も、避けて通るわけにはいかないだろう。
今回のような支援活動も、続いていくことになる。
そのなかで、学会が、政治的野心を持っているかのような誤解が生じ、世間の批判・中傷に、さらされることもあるにちがいない。
さらに、民衆に根差した新しい政治勢力の台頭を恐れる権力の干渉もあるだろう。
長い将来を思う時、政治にかかわることは、創価学会にとってプラスなのか、マイナスなのか。
また、現実社会における政治の比重が大きいだけに、広宣流布という広大深遠な活動が、将来、政治の分野に偏向するようなことになったら、
広宣流布は矮小化されてしまうのではないかー 。